奔雷
(んん?)
俺はしばたたかせた。
梅田さんのぶっきらぼうな口調にも混乱しているが。
(んんん?)
俺は目尻を外側に引っ張っては内側に押すを何度も繰り返してから手を離し、もう一度、否、何度でも梅田さんの横を見た。
やはり。
居る。
小学三年生の花嫁衣装を着た梅田さんの幽霊が。
もしかして。
この頃の梅田さんに会いたいという俺の願望が創り出した幻、か。
もしく、は。
梅田さんの魂の一部で。
抜け出してしまった所為で、梅田さんは変わってしまった、と、か。
(いや。そんなファンタジーな出来事がなくても、人が変わる事なんてあるだろうし)
とにもかくにも。
梅田さんに言えるわけがない。
変な人間だと思われたくないし。
梅田さんは幽霊の存在を知られたくないのかもしれないし。
知らぬ存ぜぬでやり過ごそう。
そう決めた俺は動揺を鎮めようと緑茶に手を伸ばした。
瞬間。
家の窓さえも大きく揺らす奔雷の音が襲いかかり。
皮膚という皮膚に仄かな電流が駆け走り、毛という毛が逆立っているような感覚に陥ったかと思えば。
梅田さんが俺を見たまま、もう一度口を開いた。
ぶっきらぼうな口調ではなく。
静かで落ち着いた口調だった。
いや、口調だけじゃなくて。
梅田さん自身が。
思わず潤んでしまった俺に、梅田さんは言った。
すまない。と。
もしかして隣で座っている子ども時代の私の幽霊が見えていないか。と。
(2022.7.30)
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