颶風
あの日。
梅田さんと再会してから、梅田さんへの何とも言えない(恋心だと断言できるが、この恋心をどうしたいのかが分からない。成就させたいのか、初恋の思い出として心中に収めておきたいのかどうしたいのか)気持ちを自覚したのも束の間、成仏する梅田さんを見送るという怒涛の出来事があった日。
どうやって帰って来たのか分からない。
ただ、ずぶ濡れで玄関に佇む俺を見ても両親は咎めも質問もせずに、風邪をひくからと言って、風呂に早く入るように勧めたり、風呂上がりの俺に黙って生姜入りの甘酒を用意してくれたり、随分と見守る姿勢を取ってくれたのは、有難く感じていたのは今も覚えている。
魂が半分抜け出した状態なのだ。
このまま優しく見守っていてくれ。
それから三週間。
願いが通じたのか。
呆気なく梅雨が終わって、両親も見守る姿勢に移行して、湿気も紫外線も多分に含む暑い夏が到来している最中。
母親からの発言に、頭は真っ白になっているって言うのに身体は勝手に動き出して玄関の扉を引くと、そこに居たのは小学三年生で花嫁衣装を着た梅田さん、でもなければ、その当時の面影を残した大人の梅田さんでも、なく。
昔の恋人の五人の内の一人だった。
その瞬間、硬直した身体に戦慄が走った。
別れを切り出したのは眼前の彼女だったのだから、よりを戻そうと言いに来るわけがないのに何故。
お金だけせびりに来たのだろうか。
実家の住所を教えた事はないのに、どうやって知ったのか。
いや何でもかんでもとりあえずここから離れてもらわなければ。
必死に導き出した思考のままに動こうとするより先に、母親が動いた。
サンダルを履いて俺の横を通り過ぎて、にこやかに言ったのだ。
ほら、この子があなたに会いたいって言っていた梅田氷雨さんよ。と。
その日、戻り梅雨がテレビで発表されたと、父親が言っていた。
(2022.7.27)
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