暮雨






 





 多分、きっと。

 道連れにしようと思ったのだ。

 独りで行くのが、寂しくて、怖くて、恐ろしくて。

 連れて行きたい。

 連れて行きたいと。

 呑み込まれそうになった。

 叫びに。




「「ごめん」」




(ごめんな、野中さん)











 俺は泣いた。

 おどろおどろしい火の玉がこの身もこの心も焦がす、夢か現か分からない中。

 梅雨時に似つかわしくない篠突く雨に打たれて。

 泥臭い雨が目に入ろうが、口に入ろうが構うことなく。

 ただただ黒い空を見上げて、泣き続けた。






 もうあの頃の俺には戻れない。

 

 両親を安心させてやりたくて幽霊の花嫁を探していたあの頃の俺には。


 梅田さんに会いたい。


 結婚したいかどうかは正直分からない。

 いや。分からないって言うより、まだしたくない。

 好意を抱いているのは確かだけれど。

 夢のように、色々な場所に一緒に行って、遊んで、話をしたいのかどうかさえ分からない。

 どんな関係を築いていきたいのか。

 恋人?

 友人?

 片手読み仲間?

 分からない。

 分からない。

 けれど、会いたい。

 会いたい。

 会いたいのに!

 





























「あ、泰智。氷雨ちゃんがあなたに会いたいって」

「氷雨ちゃんって?」

「梅田氷雨ちゃん。覚えてない、か。仕方ないわよね。あなたが小学三年と四年生の時に一緒だったらしいけど、話した事なかったって言っていたし。あ。ちょっと」











(2022.7.25)


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