水雷





 あれ、俺。

 あれ、隣で梅田さんが座って片手読みしている。

 あれ、ここは、小学校の図書館だ。

 ああ、ああ、なーんだ。

 あれは夢か。

 俺がおっさんになって、梅田さんが幽霊になってて、一緒に踊る、変な夢。

 だけど。

 俺、梅田さんが好きだったのかあ。

 今。

 言ってしまおう、か、な。

 好きだって。

 そしたらそしたら。

 これからもずっと並んで片手読みできるし。

 片手読みだけじゃなくて違う事も。

 話したり、遊んだり、チャボや兎を見に行ったり、鯉池を見に行ったり、お互いの家に行ったり、休日は自転車に乗ってどっか、公園、古本屋、駄菓子屋、バッティングセンター、ボーリング場、ゲームセンター、まあ、頑張れば、映画館、遊園地、水族館、動物園、アスレチック施設、植物園、とかも行ける、かな。


 梅田さん、おとなびてるからなあ。

 どこに行ったら喜ぶかなあ。

 んん?

 俺よく梅田さんに話しかけられたな。

 すんげえ緊張して近づく事すらできなかったのに。

 んんんんん?

 もーしーかーしーてー。

 今が夢だったりして。

 なーんちって。

 

「野中さん」


 おおっと、梅田さん。ここは図書館だよ。少し声が大きいよ。図書室の先生に怒られるよ。


「野中さん」


 そんなに怖い顔をして。

 もしかして俺の片手読みがだめ?

 確かに。

 本の重さで手は震えてるし、本をめくる時に本も身体も動いてるし、何度も手から本を落っことすし、持ったりめくったりするのに必死だったり、梅田さんの事を考えたりで本をきちんと読めてないし。


 ああ、ほんと、俺って。

 だめだめだなあ。











(2022.7.18)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る