疎雨
片手読みを無事に終えた俺は、太ももの上に軽く置いていた片手で目頭を押さえていた。
文字なしのにらめっこの絵本でどうして目頭と共に喉が熱くなったのか。
きゅうきゅうきゅうきゅう、熱にやられた喉が泣いている。
絵本によって懐古の情が引きずり出されたのか。
うっすらとしか読んだ覚えがないのに?
いやでも懐かしいと言えば懐かしい。
確か、家でも幼稚園でも読んだ、記憶がある。うん。
幼稚園の教室から広間の小鳥小屋を通って。
そうそう。でっかい小鳥小屋があったんだよな、教室に負けないくらいの大きさの。
で、小鳥の匂いがすごかったんだよな。
小鳥って言うか、動物園の、あの獣臭。
あんなちっこい鳥なのになあ、よくあんな臭さを出せたよなあ。
あれ、そう言えば、餌をあげた事がなかったな。
外の小屋に居る兎にはあげていたのに。そこら辺に生えている草を。
いや待てよ、これは小学校の記憶か?
チャボと兎がいたんだよな。生物係が班に回って来て昼休み、違うな、掃除時間に餌やりと掃除しに行ったんだっけ。
可愛かったよなあ、チャボも兎も。
鳥インフルエンザが流行ってから、兎だけになっちまって。
選挙帰りに小学校に寄ったら、たったの一匹になってて。
三つある部屋の内、二つはがらんどうで寂しかったな。
あれ、何で俺、こんなに昔の事を思い出しているんだっけ。
もしかして。
「野中さん」
もしかして、俺もすぐ君の仲間になるのかもしれない。
少し強張った表情の梅田さんを見て、そう思ってしまった。
(2022.7.11)
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