雷雨
告白する寸前。
叢時雨に襲われた為に、声が届かなかったようだ。
安堵と遺憾が入り混じるような複雑な感情を抱きつつ、凌げる場所に行こうと声を張り上げて駆け走る彼女の後を追った。
すでに濡れているので土砂降りだろうと何だろうと降り注いでくれても構わなかったのだが、流石に雷は怖かったのでついて行く。
走って、走って、少しずり転びそうになりそうになりながらも耐えては走って。
最後の純白の鳥居を潜り終えては、盛大な青紫陽花に迎えられて今、俺たちは青紫陽花に囲まれている円錐形の建物に入っていた。
扉はなく、前後に楕円形の入り口がぽっかりと空いて外の青紫陽花が眺められる仕様になっており、中央には丸くて大きい木の机が一つと、それを囲むように背もたれのない丸い椅子が九つ、そして、建物の縁にぽつぽつと小さくて長方形の本棚が置かれており、建物の上半分はガラス張りになっていた。
「泥だらけだな」
「うわ。本当だ」
建物内部を眺めていた所に彼女に指摘されて初めて、見える範囲で自分を矯めつ眇めつすれば確かに。彼女の言う通りの姿になっていて、思わず赤面した。
せめて少しだけでも綺麗にしようとポケットに入れていたので泥から免れたのか、雨で濡れているだけのハンカチで顔と首、手の泥水を拭い、入り口へと向かってハンカチを、ついでにポロシャツも豪雨で洗おうとしたのだが、ほんとうにひとしきりで終わって今は袖笠雨になっていたので断念して戻り、一席にハンカチだけ畳んで置かせてもらった。
「野中さん」
「何だい?」
俺に背を向けて本棚を見ていたので、彼女がどんな顔をしていたのかは分からない。だから判断がつかない。
戯れなのか、本音なのか。
彼女は言った。
君の、片手で本を読む姿に、心を揺り動かされたのならば。
結婚の申し出を受け入れる、と。
ガダガタンと。椅子が盛大に倒れる音がした。二脚。
床が土かと思ったら、どうやら違ったらしい。
(2022.7.1)
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