人形
もしかして俺と同じ名前だけれど違う人物と間違ってはいないでしょうか?
そう尋ねようとして動かした口からは全然違う言葉が発せられていた。
何て言ったかって?
俺と結婚してくれませんか。だ。
うわ不審者。
小学三年生に求婚している時点でアウト。
即逮捕だ。
生きていれば。
幽霊には適用されないはずだ。
それに時間制限有だから大丈夫だろう。
すごく短時間。
一生なんて考えてない。
いくら初恋でも俺も無理です。
そもそも結婚願望ありませんから。
「一秒でいいんです。いや、十秒。親に結婚した所を見せるだけ。あとは即離婚しましょう」
そう。結婚する理由は、親を安心させる為だけに過ぎない。
結婚しましたと、一時の結婚に同意して花嫁衣装を着た女性と花婿衣装を着た俺が両親の前に立つだけ。ついでに、婚姻届けを見せれば、それだけでいい。
彼女は何も言わず、ダンスを止めなかった。
俺も答えを急かさず、ダンスを止めなかった。
煙雨も止まなかった。
たった二人だけの世界。
邪魔な感情や思考をどんどん脱ぎ捨てていく。
ただ躍るだけの人形になっていく。
壊れるまで。
いいえ。
誰かが否定をする。
雨が止むまで。と。
不意に彼女の足が止まった。
途端。
思考や感情が奔流に押し戻されて、耐えきれず両膝を泥水へと落としてしまった。
彼女は笑った。
天真爛漫に。
そして言った。
或る場所に連れて行ってほしい。と。
(2022.6.30)
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