正解




 ダンディですよね。

 これは正確ではない。

 ダンディっぽい見た目ですよね。

 これが正解だ。


 休日にはほぼ一日を使い頭を空っぽにして散歩するという、唯一の趣味が功を成したのだろうか。

 均整の取れた身体と、三十代前半から剃っても剃っても翌日には見事にどっさりと生えて来る口ひげの駆逐を諦めて軽く整えているだけなのだが、何事もスマートにこなせそうな渋い男性に見えた。

 まあ、見えるだけ。

 実際は超不器用。

 三、四回聞いたり書いてもらったりして、やっと内容を理解して行動に移せるくらいに。

 残念なやつだとよく言われる。

 莫迦にするのではなく、可哀想って感じで。 


 あと金も持っていそうとよく言われる。

 いや持っていない。

 確かに実家暮らしだからそんなに金はかからない。

 両親に生活費を手渡す以外は、スマホ代、時々買う本、甘味、酒、靴、その他必要なものくらいだし金は溜まっていくが、金持ちだとは言えないだろう。

 湯水のようには使えず、このまま貯まっていけばせいぜい老後がちょっと安心になるかな程度。

 だから金目当てにすり寄って来ても見当違いって話だが、彼女はほしいので言うがままに金を使えば要求はどんどん高くなっていく。

 断れば暴力を振るわれた。


 それでも私の恋人なの。簡単に物を投げつけられたり殴られたり蹴られたりしてんじゃないわよ、スマートに躱して止めて見せなさいよ。


 なんて無茶ぶりも要求される。

 いやいやいやむりむりむり。

 暴力反対と身体を震わせながら頼めば、情けないと別れを切り出される。

 こんなのが何度続いたっけ?

 覚えてない。

 いやうそ、五人。




 もう生身の人間はこりごりだ。

 結婚するなら幽霊って発想になってもおかしくない。

 と。

 自分を正当化しながら辿り着いた墓地で。


 俺は再会したのだ。


 初恋の人に。

 いや、初恋の人の幽霊に。

 








(2022.6.9)


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