第6話

 私と黒宮玲奈は場所を変えて靴箱へとやってきた。


「ねえ……なんで優希のこと好きになったの?」

「……なんでそれをあなた……そういえばまだ名前を書いてませんでした」

「白崎裕子よ」

「白崎さんに教えなければならないのですか? 何か義務でもあるのでしょうか」


 たしかに私に教える義務なんて存在しない。

 いや、私は優希の幼馴染として優希の将来のお嫁さんとして──。


「あるよ、私に教える義務」

「へえ、それはなんでしょうか?」

「だって、私は優希の幼馴染……であり、将来のお嫁さんだから!」

「はあ……鈴木くんの? へえ、幼馴染なのですか。けれど、将来のお嫁……? 意味がわからないです。現に私は今鈴木くんとお付き合いをしているわけですし」


 ああ、やはり優希はこの女に洗脳されてるんだ。

 なんとしてもこの女から優希を……。


「ねえ、どうやって優希を好きにさせたの? 惚れ薬か何か」

「惚れ薬ですか……? ただ、お付き合いを、と告白しただけですが」


 絶対それだけのはずがない。

 だって、だって、優希は私のことが好きなのだから。

 どんな手を使って優希を操っているの?


「そうやって隠してもバレバレよ。どうせ裏があるんでしょ」

「裏ですか……? 白崎さん。あなたの言っている意味がわからないのですが」


 しらばっくれて。

 こっちは全部わかってるんだから。


「全部わかってるから」

「? ……何か白崎さんは勘違いをしているのではないですか? 私はただ告白しただけなのですが」

「そんなはずない。だって、優希は私のことが好きで、私と将来結婚したいって言ってた」

「それはいつですか?」

「幼稚園の頃」


 ただそれだけを信じて今まで生きてきた、告白されるたびに優希のお嫁さんになるために振ってきた。

 きっと優希も同じだ。

 私と結婚する気でいた、けれど、黒宮玲奈によって操られてしまった。


「あの、白崎さん。幼稚園の頃の言葉を今もなお引きずっているのは重い気がするのですが」

「そんなことない」

「いいえ、そんなことあるんです。いいですか? 白崎さん、あなたは少しおかしいです。そんな幼稚園の頃のできごとを今もなお信じているなんて」

「おかしくない」

「いいえ、おかしいです」


 なんなのこの女。


「まあ、白崎さんの考え方は勝手でいいのですけれど、私と鈴木くんの仲を壊す行為だけはやめてください」


 殴りたい、こいつの顔をぐちゃぐちゃにしてしまいたい。 

 

 両手にぐっと拳を作るがなんとか我慢する。

 

 今殴ったら周りに見られてしまうからだ。


「もう、話にならない。ぜーんぶわかってるから、あなたが優希を操ってることも」

「やはりあなたはおかしいですね」

「そう言ってればいいよ、じゃあ私はこれで帰る」


 これ以上、黒宮玲奈と喋っていたらおかしくなりそうだ。

 優希と帰るのは嫌だが今は仕方がない。


「へえ、じゃあさよならですね」

「ふん!」


 いつかその顔をぐちゃぐちゃに潰してやりたい。

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