第4話

「ごめん、遅くなりました」


 黒宮さんと昼ごはんを食べるために俺は約束の場所である体育館裏へとやってきた。


 そこにはまだお弁当を食べていない黒宮さんが待っていた。

 ぷんぷんと可愛らしく両頬を膨らませている模様。

 どうやら起こっているようだ。


「遅いです」

「ごめん、用事があったんです」


 未だに裕子の唇の感覚が残っている。

 

「そうですか……まあ、内容は聞かないとしますが、お昼休みももう二十五分しかありませんね」


 お昼休みは五十分であり、裕子との出来事で半分も使ってしまったようだ。


「本当にごめんなさい!」

「まあ、いいです……今回は多めに見るとします……ですが」 

 

 黒宮さんはお弁当箱からお箸を取り出して俺に渡す。


「?」


 俺はそれを受け取る。


「鈴木くんのお箸を貸してください」


 言われるがままにお箸を渡す。


 一体何をするつもりなのだろうか。


「お互いにあ〜んをしながら食べるとしましょう。それで許します」とニコリと微笑む黒宮さん。


 なるほど、かなり難易度の高い注文が来てしまった。

 する、される、の片方ではなく両方を同時にやるとは。


「わかりました、まあ、俺の遅刻が原因ですしね」


 ということで俺は黒宮さんのお箸で黒宮さんのお弁当から卵焼きを取り出して。


「じゃあ、俺から」

「はい、あ〜ん、と言ってくださいね」


 まじか……恥ずい。

 

 黒宮さんは口を開き、俺はそこに。


「あ〜ん」と言いながら、卵焼きを運ぶ。


 こういうので興奮してしまう俺は健全な男子高校生なんだなと知らしめられてしまう。


 続いて黒宮さんの番である。

 黒宮さんは俺のお弁当箱からお箸で唐揚げを取り出して……次の瞬間。

 パクリと自分の口に運んだ。


 え……?


 そして、黒宮さんはもう一つの唐揚げをお箸で掴むと。


「はい、あ〜ん、ですよ〜」

「ま、待ってくれ。間接キスじゃ……」

「はい、ですが別に恋人ならこのくらいのこと当然でしょう?」


 少し黒宮さんの距離感がバグっている気がする。

 付き合って二日目の関係で間接キスは……はやい気がするのだが。


「わ、わかった……」


 俺は口を開く。


「はい、あ〜ん、です」と黒宮さんは黒宮さんが使った俺のお箸で掴んだ唐揚げを俺の口へと運んだ。


「じゃあ、次は私の番ですね!」


 ニコニコとしている黒宮さんはとても可愛らしかった。

 こんな感じで交互にあ〜んをしあってお弁当を食べた。



 ──おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。


 なんで優希はあんなに私が責めておいて手を出さないの!?


 ──おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。


 普通、あそこは襲ってくるところでしょ?


 ──おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。


 なのに、なのに、なのに、なのに。


 ──おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。


 おかしいでしょ、なんで私より黒宮玲奈を大切に思ってるの。

 おかしいよこんなの。


 三階、自分の教室から出て外を見るや否や、私は手に持っていたトマトジュースを握り潰す。

 中にはまだまだたくさん残っていたため、真っ赤なトマトジュースが勢いよく飛び出て廊下に垂れる。


 体育館裏、そこで優希と黒宮玲奈がお互いに、あ〜ん、をしながら食べていたのだ。


 ──おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。


 

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