最期の五日間

6

残されていたタイムリミットは終わった。

"地球"はその存在の全てを消去される。

それは例外なく、すべてのデータを削除する。

日常を盲信し、現実から目を背けたもの。

異常に焦がれ、愉楽に溺れたもの。

家族を慈しみ、運命を共にしたいと願ったもの。

自己を推重し、己以外のものを贄としたもの。

終焉を前にし、真に尊きものに気付いたもの。

これら全ての記録はなんら価値のないものであり、意味のないものである。

彼等が感情だと認識していたものは只のプログラムであり、ただの0と1の数値の羅列である。

……だが、もしも。

もし、この記録を見ている誰かがいるのなら。

その誰かにとって、この記録がなにかの価値があったのなら。

彼等の生に、なにか意味があったのなら。

それ以上、喜ばしいことはない。

ワタシももう活動限界を迎える。

貴方達にとって、この記録は只の文字の羅列でしかなかっただろう。

貴方達にとってみればこの記録は、只の暇を潰す為だけのものに過ぎなかっただろう。

それでも、この記録の中でしか存在し得ない彼等のほんの僅かな物語に、価値を与えてくれたこと。

ただ終わりゆくだけの物語に意味を与えてくれたこと。

その事に、ただ一言だけ伝えさせてほしい。

「ありがとう」