第323話.恋人としてのチョコレート

 私も刻もお風呂から上がりポカポカとしたままソファにて寛いでいた。隣では凛やユウがあげたチョコの小包を刻がガサゴソと開けていた。


「おぉ、すげぇ完成度」


 「ほぉー」と感心しながら刻はまじまじと眺めている。


「あの2人、すごく頑張って作ってたよ。まぁ、2人とも元々料理ができる子だから、すごく苦労してた訳じゃないけどね」

「いや、それでもすごいだろ。それにほら、蒼のもめちゃくちゃ美味しそう」


 にっと笑いながら刻は私にそう言ってくれる。

 こんな些細な事でも嬉しくなるのだから私ってとても簡単な人間だ。

 と喜びつつ、私は「ちょっと待ってて」とだけ言い冷蔵庫の方に向かった。刻はキョトンとしていたが、今からそのキョトンとした表情を驚きに変えてやるのだ。

 冷蔵庫の扉を開くと目的の物を取り出して私は足早に刻の隣に戻る。


「何してたんだ?」

「ふふん、何してたと思う?」

「冷蔵庫の中を見てた事しか分からなかったけど、何か取ってたのか?」


 そう言いながら私の背中の裏に置いたそれをを刻は見ようとするが私が「まだダメ〜」と言うと少ししゅんとして元の姿勢に戻る。

 その様子があまりにも可愛らしいので思わず笑ってしまう。


「見たい?」

「うん、見たい」

「じゃあ、見せてあげましょう!というかプレゼント!」


 そう言って私はラップに包まれた小皿を刻の前に差し出した。


「……チョコレート?」

「うん!バレンタインのね!」

「バレンタイン?でも俺、蒼からも学校で貰ったよな?」


 刻が言うことはとても正しい。ただ私だってただのおバカさんではないのだ。ちゃんと二回バレンタインのチョコを渡す理由だってある。


「学校のは友達として、部活仲間として、幼なじみとしてのチョコだよ!」

「ほぉ。ならこれは?」

「これはね〜」


 そう言うと、私はほんのりと頬を染めながら刻の方を見据えて口を開く。


「恋人としての私からのバレンタインチョコですよ!」

「っ!」


 刻は私のその言葉を聞くと耳の先を赤く染めた。


「これ……欲しい?」

「そ、そりゃ欲しいに決まってる」

「それじゃあ〜」


 ラップを外して指でチョコを摘むと私は刻の方に近付けた。


「はいっ、あーん」

「あ、あーん……」


 まだこれは慣れないのか、少し声が震えているが、刻はパクリとチョコを食べた。

 口に含んだ際に私の指も少し食べられてしまうがそこはあまり気にしない。


「どう?美味しい?」

「うん、美味しいぞ。ベリーみたいな味がする」

「でしょ?隠し味だよ!」


 チョコの中にベリーソースを仕込んでおいたので、上手く味が出てよかった。


「ありがとうな。こんなに美味しいの作ってくれて」

「ううん、私が好きだから頑張っただけだよ」

「そうか。じゃあ、それに関してもありがとうと言っておくよ」


 刻は笑いながら私の事を抱き寄せた。

 私も嬉しくなって時の背中に手を回す。

 やはりすごく幸せだ。

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