第321話.バレンタイン
「「「「ハッピーバレンタイン!」」」」
部室に入るとすぐにそう言われた。
「お、おう……」
あまりに急な事だったので大した反応もできず曖昧な反応のまま部室に入ると、凛が頬を不満そうに膨らませる。
「もうっ!刻くんもう少し驚いてくれてもいいんじゃないかな!」
「あ、いや……なんかすまん」
こちらとしては謝ることしか出来ないので軽く頭を下げると「まぁ、いいけど!」とだけ返される。
「あはは、凛が一番サプライズを楽しみにしてたもんね」
蒼と華山に江草は笑いながら凛の方を向いてそう言う。凛は少しだけ頬を染めながら「別にいいでしょ、サプライズって楽しいんだし」と開き直った。
「うん、そうだね」
「それよりもほら、先輩達チョコを渡しましょうよ!頑張って作ったんでしょう?」
「そうだね。ほら、刻くん!私達からのチョコです!」
そう言って4人から袋に包まれたチョコを手渡された。
「おぉ、ありがと」
去年と比べると大きな進歩だ。去年は家族の
貰ったチョコは大切にカバンの中に仕舞いながら、俺は再度「ありがとう」と伝えた。
「そういや、江草は榊原にもちゃんと渡したか?」
「うぐっ……」
そう聞くとなぜか江草は目を逸らす。
「あはは、改めて恋人として渡すってなると緊張して上手く渡せる気がしないんだって」
「なるほど。まぁ、まだ帰る時に時間があるだろうし間に合うだろ」
「はい……頑張って渡します」
頬を可愛らしく染めながら江草はこくりと頷くとカメラを取りに部室の隅に行ってしまった。
「にしても、今日は寒いね」
「だな。朝の天気予報でも最高が五度とか言ってたし、かなり冷え込んでるみたいだな」
「夕方から雪が降るかもしれないらしいですよ」
「へぇ〜、何気に雪って久しぶりじゃない?」
「かもなぁ」
本州の中心付近に位置するここ兵庫、特にその中でも神戸の方はここ最近雪が降ること自体が減ってきている。修学旅行の時は少し積もる程度には降っていたが、それこそあれ以来一度も降っていないのだ。だからおのずと雪に関しては小学生のように無邪気に反応してしまう。
「雪だるま作れるかな?」
「雪合戦!」
「カマクラとか?」
おおよそ神戸に降る雪では到底無理な案ばかりが出るので、現実を見た時にガッカリしてしまうのではないかと少し心配になる。
「先輩達、雪は見て楽しむのが一番ですよ。家の中でしんしんと降る白い粉雪を見るんです。それが一番心癒されます」
まさかの江草から大人な回答が出ることで蒼と凛はピシッと石のように固まってしまった。なお、華山は2人の話を微笑みながら聞いていただけなので石にはなっていない。
「……あ、分かった!江草ちゃん榊原くんと一緒にお家デートしながらその雪を見るんでしょ!」
「あぁ、そういう事なら納得」
「ふふーん、名探偵凛さんにお任せあれだよ!」
「……べ、別にー?違いますけどー?」
これでもかと言うくらいに江草の分かりやすいリアクションには笑いが溢れる。
「いいんじゃないか?お家デート。意外と楽しいぞ」
「け、経験者は語るってやつですね」
「まぁ、そんなとこ?」
そこまで大それたことでもないが、そのお家デートの相手の蒼も「うんうん」と頷いているので、俺の思う楽しいは間違いではないだろう。
実際楽しいし、何より人目を気にせずに好きな人に触れたり感じたりすることが出来る。
そう、お家デートには幸せしかないのだ。
「ま、楽しいからさ。その時にでもチョコを渡したらいいだろうしね」
最後に蒼はそうアドバイを送るとカメラの準備に取り掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます