第320話.過去の出来事と、秘めていた気持ち

「お前……あぁ、灯崎のやろうとたまにつるんでるやつか」

「灯崎関連で覚えられるのは何だか釈然としないが、まぁそうだ」

「ふーん、まぁ何でもいいけど。それよりもその手何?なんで俺の手を掴んでんの?」


 鏡坂くんの事を睨みつけるようにしながら相手はそう言った。しかし鏡坂くんはそれに動じる事は、と言うよりかはそもそも気にしていない様子で割といつもの調子で話し出した。


「そんなの、お前が嫌がる華山を無理やり連れてこうとしたからに決まってるだろ。嫌がる女の子に乱暴してもモテないぞ」

「はっ、言ってろよ。お前も別にモテないだろうに」

「……それは言うなよ」


 苦虫を噛み潰したように鏡坂くんは顔を歪めるが私は知ってるのだ。鏡坂くんが少なくともあの2人から恋心を寄せられている事を。


「まぁ、とにかくだ。華山に嫌がられてる段階でお前の負けなんだよ。おーけー?」

「……チッ、あーあ、シラケた。シラケたわー、マジないわ」

「おう、シラケたんなら帰れ帰れ」

「言われなくてもそうするわ、童貞野郎」

「ブーメランになってるけど大丈夫かー?」


 遠くに去っていく相手に向かって鏡坂くんは最後にそう投げかけた。

 煽られた事に怒りを見せて拳でも飛んでくるんじゃないかとヒヤヒヤしたがそんなことは無い。「ほっ」と息を吐くと鏡坂くんはこちらを向いて心配そうな表情を浮かべた。


「掴まれた腕、大丈夫か?」

「は、はい。怪我とかは無いです」

「そっか、なら良かった」

「あの……ありがとうございました」

「ん?別にいいよ。当然の事をしただけだし」


 「にっ」と笑いながら鏡坂くんは何でもなさそうに普通に話すのだ。


「さて、腹も減ったし教室に戻ろ」

「そうですね。お昼休みも少し過ぎちゃってますし、早く戻りましょうか」

「おう。あ、大丈夫だとは思うけど一応教室までは送るからな?何があるか分からないし、俺の方にふっかけられるのはいいんだけど」

「すみません、お願しますね」


 ぺこりと頭を下げると私達は本校舎に戻る。

 普段部活以外で一緒にいることが少ないので周りの生徒には奇異の視線を向けられながら私達は戻った。


「空宮と凛に机取られてないといいな〜」

「いつも取られるんですか?」


 尋ねるとこくりと頷いて説明をしてくれる。


「俺と凛の席が隣だからな、空宮がよく膝の上に乗ってくる。それで今日みたいに席を完全に空けてると奪われてる」


 クスリと笑いながらそう話す鏡坂くんは、何か愛おしいものでも見てるような話しぶりだった。

 きっとその視線の先には私はいないけれど、だけど少し憧れる。

 私が好きになりたいような人はきっとこの人みたいな性格だ。



✲✲✲



「という事がありまして」


 話し終えると蒼さんはポッと頬を染めたまま俯いてしまう。


「つまりその話を聞くとですね?有理さんはその時に刻兄のことを好きになった、と。ちなみにその時の刻兄は蒼姉の事を話す時に愛おしいものでも見るかのような表情をしていたと」


 うつみさんは大きく頷きながら最後に結論づけた。


「つまり、その時くらいから既に蒼姉は刻兄から意識されてたということですね!!」

「ひゅ……」


 蒼さんは顔を覆って縮こまる。


「う、嬉し恥ずかしで頭がパニックだよ……」

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