第319話.頼れる背中
いつものように授業を受けて休み時間を静かに過ごしていると、ふと私に近付いてくる影が視界に入った。
私はそちらの方向を向くと、知り合いではない他クラスの男子生徒が立っていたのだ。
「ど、どうかしましたか?」
少し言葉に詰まりながらそう尋ねてみると、その男子生徒は一枚の紙切れを私の机の上に置いて何も言わずに去っていく。
一体何だったのだろうか。
そう思いながら私は残された紙切れを手に取り、開いてみた。
中には短く文が書かれている。
『昼休み校舎裏来て』
校舎裏という人気の少ない所に呼ばれたことに少し嫌悪感を覚えつつも、何か用事があるのだろうと割り切り私は昼休みまでの時間を待つことにした。
2時間分の授業を終えると私は教室を出て、呼び出された校舎裏に向かう。
道中では何人もの生徒とすれ違ったが、その中にはあの男子生徒はいなかった。
もういるのだろうか。ならば待たせては悪い、と思い私は少しこばしり気味で向かうと、既に校舎裏の壁にもたれている男子の姿が目に入る。
「す、すみません。お待たせしました」
「ん」
「そ、それで……私に何の用事があったんですか?」
詰まり詰まりの言葉を紡ぎ出しながら私がそう尋ねると、彼はこちらを鋭く見据えて口を開く。
「もう勘づいてるでしょ」
「は?……な、何がでしょうか?」
「俺が今から告白するってこと」
「こ、告白……ですか」
告白は考えなかったわけではないが、関わりが無いゆえにそれは無いと勝手に選択肢から消していたものだ。
「俺あんたの事、好きなんだよね。だから付き合ってくれない?」
ヘラヘラとした態度。告白されている最中だとは思えないその言い方に違和感を感じてしまう。
それに残念ながら私には彼を想う気持ちがない。だから断ったのだ。
「ご、ごめんなさい……。き、気持ちは嬉しいですけど、付き合うことは出来ません」
努めて丁寧にそう言ったつもりだ。
ただ何かが彼の琴線に触れたのだろう。少し熱が昇ったように顔を赤くしながらこちらに睨みを効かせて始めたのだ。
「えぇ?なんで無理なの?」
「い、いや……あなたに好意を持ってなので……」
「そんなん、付き合ってから育めばいいじゃん」
「い、いや……そういう物でもない気がするんですけれど」
「はぁ?あんたはそうでも、俺はそうじゃないの」
ゲラゲラと笑いながら彼は私の方に手を伸ばす。
「それにさ、あんた顔がいいじゃん?それに実はスタイルもなかなかいい」
舐めるように私の体を見ながら彼は一気に私の腕を引っ張りこう言った。
「なぁ?素直に俺の女になろーよ?」
もうその声と言葉からは一切の好意というものを感じなかった。感じるのはものとしての価値を見定めるような感情だけ。
「い、いやっ……」
微かな声でそう呟くのが限界。
空き教室の多い校舎の方へ強引に引っ張らるのを抵抗しきれず、目に涙が溜まり始めていると、急に私の腕を掴んでいた手が離れたのが分かった。
何が起きたのかと目を開いて前を向くと、私の前に見知った背中が見える。
「華山大丈夫か?」
「き、鏡坂くん……」
そう鏡坂刻くんの背中だ。
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