第317話.報告とハンバーグ

「ほ、本当に私達付き合ったんだよね?ね!?」

「そ、そうだぞ。……早苗がこんなに舞い上がるなんて珍しいな」

「そりゃ私だって舞い上がるよ!こっちはてっきり振られるものだと思ってたんだからさ!」

「いや、それはこっちも同じことで……」

「いや、もうそんなことどうでもいい!今は付き合えたことを喜ぼう!」


 ぴょんっと跳ね上がりながら私は秋の方へとダイブした。

 大きい体に受け止めてもらいながら、私はおでこをぐりぐりと胸板に押し付ける。


「えへへ〜」

「……変わりすぎてびっくり」

「私は元からこんなです〜」


 とは言いつつも自分でも自覚はしていた。

 明らかに浮き足立っているのだ。

 どこかまだ現実に起こった事ではないのではないかと疑う自分もいるし、素直に現実だと認める自分もいる。

 そんな2人に挟まれたら本体の私はふわふわとするしかないのだ。


「それよりもさ、秋はこの事、誰かに言う?」

「何で?」

「ほら、秋ってモテるから……もしかしたら反感を食らうかもなぁって思って」

「モテる……のかは知らんが、でも早苗に何かされることがあったら俺が守る」

「ん、じゃあ頼ることにする」


 事実秋には一度助けてもらっているのだ。あの時は本当に怖かったし、体も動かなかったが、秋が来てくれたおかげで私は男性恐怖症にもならずに済んでいる。


「それじゃあ、改めてよろしくね、秋」

「うん、こっちこそよろしく」



✲✲✲



 ご飯を食べているとテーブルの上に置いていたスマホがピロリンっとLINEの通知を知らせた。なんだろうと思いながら見てみると私は思わず目を見開いてしまう。


「と、刻っ!!」

「ん?」


 ハンバーグを美味しそうに食べていた刻は、キョトンとした顔をでこちらを見ながら続きを話すように促してきた。


「さ、早苗ちゃんが榊原くんと付き合うことになったって!!」

「へー。……んんっ!?あいつら付き合うの!?」


 時間差で刻は私よりも大きくリアクションを見せる。

 それもそうか。おそらく榊原くんの早苗ちゃんに対する好意にいち早く気付いたのは刻だ。そんな誰よりも長く見守っていた刻が付き合った報告を聞いたら驚かないわけが無い。


「そうみたいなの。何か振られる前提で早苗ちゃん告白したらしいんだけど、振られずに付き合えた事に本人もびっくりしてる」

「まぁ、こちらとしてはどっちでもいいから早く告れよって感じだったけどな」

「まぁね」


 本人達が知らないだけで、PhotoClubの2年生メンバーは全員2人の好意には気付いていたのだ。

 告白をしたら行き着くゴールも当然なんとなく把握できるし、じれったいなと思いながら2人を見ることも少なくはなかった。

 けれどそれがついに付き合う事になったと。

 そしてやっと一歩を踏み出し始めたのだ。


「めでたいね」

「めでたいな」


 たった1人の後輩の恋路が上手くいく事を祈りながら私達は微笑みあった。

 こちらも先輩幼なじみカップルとして負けていられない。

 アドバイスも聞かれることがさらに増えるだろうし、私達もカップルとしての経験を増やそう。

 そう思いながら私はまたハンバーグにパクついた。

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