第316話.告白……って、私に!?

 秋が今日告白を好きな相手にすると宣言してから、しばらく静かな時間が過ぎる。なんだか、恋愛の話になってしまったせいでお互いに少し気まずくなっているのだ。

 今日告白すると言われたのだから、私は諦めるしかない。秋の好きな相手は秋が高嶺の花だと言うような相手だ。私など到底手も足も出ないだろう。

 結論から言って、今ここで最後のチャンスを使ったとしても勝ち目がないのだ。

 私は自分に勝ち目が無い、その事実を認識し直したことでさらに心が重くなる。

 なぜこうも初めての恋のライバルが高嶺の花なのだろうか。

 勝ち目のない勝負を用意するなんて、神様はイジワルだ。



✲✲✲



 秋にはリビングで待っててもらい、私は制服から部屋着に着替えた。

 本当はもっと女の子らしくオシャレをして男の子の前には立つべきなのだろうが、秋は私の部屋着を何度も見ている。今さらオシャレをしているほうがおかしい。

 最後にダボッとしたパーカーを着ると私はぺたぺたと素足で冷たいフローリングの廊下の上を歩いた。


「ねぇ秋」

「ん?」

「秋には好きな人いるでしょ」

「うん」

「言ってなかったけど私にもいるの」

「え?」

「私にも好きな人がいるの」

「そう……なのか」


 何故か酷くショックを受けたような表情を浮かべながら秋は顔を伏せる。


「それでね、秋が今日その好きな人に告白するなら……私も今日告白するの」

「えっ……」

「告白してそれで振られて……吹っ切れるつもり!」


 最後に思いっきり笑ってやりながら私はそう言った。変わらず秋は驚いた表情を浮かべたままだ。


「いや、早苗が振られるなんてこと無いだろ……」

「ううん、あるんだよ。現実は厳しいものでね。なんてったって相手には好きな人がいるらしい。そんな人に私がアタックしてももう手遅れなの。だからこれは諦めるための告白」


 そう言ってから改めて秋の方を向いた。あぁ、こういう時にも心臓はドキドキと緊張してくる。振られると分かっているのに、分かっているにもかかわらずどこか期待している自分がいることに腹が立つ。

 これは諦めるための告白だ。

 緊張なんてものはいらない。最後は笑って終わらせて、秋の恋を応援する。私には幼なじみという最高の立ち位置があるじゃないか。

 これでいいのだ。

 初めての恋は苦くなるが、これも人生経験。あとは未来の私に託すだけだ。

 呼吸を一つしてから言葉をつむぎ出す。


「秋……私、秋の事好きだよ。すっごく……好きだよ」

「……」

「って、困っちゃうよね。秋には好きな人がいるのに。ほら、さっさと振りな!私が期待しちゃう前に、盛大に振ってくれたまえ!」


 困惑したような、どこか、どこか驚き以外にも別の感情を抱いた秋の顔が私を捉える。


「早苗」

「はい」


 さぁ、振られ……、


「俺も早苗の事……好きだぞ」


 あれ?


「え?」

「ん?」

「聞き間違えたかな……私もしかして自分に都合のいいように脳内変換した?」

「聞き間違えしてないと思うけど」

「え、じゃあ何て言ったかもう一回だけ……言ってくれる?」


 そう言うと秋は顔をほんのりと染めながら躊躇いがちに呟いた。


「だ、だから……俺も早苗の事好きだぞ……って、言ったんだけど」

「……えぇーーー!!?」

「う、うるさ……」

「高嶺の花は!?好きな人はどうしたのさ!?」

「いや、それは初めから早苗のことを指してて言ってたんだけど」

「う、うそ……」

「いや、本当だって」


 秋の好きな人が私。私が秋の好きな人ということはつまりこれは両想いということで……もしかして付き合えるの?


「だ、だからそのなんだ。早苗、俺の恋人に……なってくれないかな?」


 ここで断るなんて選択肢がどこにあるだろうか。

 いやそんなもの……無いっ!!


「はいっ!喜んで!」

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