第315話.心臓に悪い時間

「ぶ、物理的な問題……」

「そう、物理的な問題。秋に別に遠慮も何も無いからね。手伝って欲しい時は言うし、秋の手伝うって誘いも本当は嬉しいんだけど、私が動けなくなったらそれは意味が無いのだよ」


 ツンっと秋の鼻を背伸びでつつきながら私は洗い物を再開した。


「そういう事だから今の君の居場所はソファの上さ」

「でもなぁ……」

「ほら、遠慮しない。さっさと座る。そして場所を空けたまえ」


 納得していなさそうな表情を浮かべながら秋はソファの方に向かった。

 私はそんな秋に構うために早めに洗い物を済ませてしまう。

 濡れた手を拭きながら私は秋の隣に座った。まだ制服姿なので本当は着替えた方がシワにならなくて済むのだが、今はそんな事は気にしない。


「ねぇ、秋」

「うん?」

「秋ってさ好きな人いるって言ってたでしょ?」

「そういや言ったな〜」

「秋にとって高嶺の花だとか言ってたけどさ、その人にはその……もう告白とかした?」


 緊張しながら勇気を出して聞いてみると、秋は不思議そうな顔をする。


「何でそんな事聞くんだ?」

「い、いや……だって気になるじゃん。一応幼なじみなわけだし、他人じゃないんだから」

「んー、そうなのかな?まぁ教えてもいいけどさ」

「う、うん」

「結論!まだ告ってません!」

「ほっ……なら安心した」


 思わずそう零しながら私は頬を弛めてしまう。ただそんな私とは対照的に秋は再度不思議そうな顔をした。


「安心した?それまた何で」

「い、いやっ!別にそれは……何でもいいでしょ。とにかく!何でもない!安心したかっただけ!」


 ポカリと肩を叩くと私はそっぽを向いた。

 心臓がドキドキうるさいっ。もう少し……静かにしていてよ。

 手のひらを胸に当てながら私は深呼吸をする。


「なぁ早苗……」

「な、何?」

「俺って本当に告白してもいいのかな」

「い、いいとは思うけど……それを決めるのは私じゃないし、秋がしたいのなら……私には止めれないよ」

「そっか、なら今日するよ」

「そう……」


 家に帰ったら電話でするのだろう。

 そう思うと心がキュッと苦しくなった。

 呼吸も浅くなる。

 浅くなる。

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