第314話.料理の準備
家に帰ると私は荷物を部屋に投げ入れてすぐに手洗いうがいを済ませてしまう。
秋が家に来るのはおそらくシャワー等をしてから尋ねてくるので、早くても30分後だろう。
エプロンを肩からかけて腰で紐を括りながら、私はパタパタとまるで新妻さんのように忙しなくキッチンで動いていた。
「フライパンにへらに菜箸に……あとお鍋お鍋」
料理に使う道具を出しながら同時に私は作るメニューも考え始めた。
秋は男の子だからやはりお肉の方がいいだろう。タンパク質をしっかりと摂って貰い、ぜひとも部活でも活躍してもらおう。そして私にもっとかっこいい姿を見せてもらいたいものだ。
材料を冷蔵庫から取り出して下ごしらえを始めながら時々時計にも目をやる。早いもので針は既に15分経った事を示そうとしていた。
馴れた手つきで野菜を刻み、お肉にも切込みを入れて柔らかくなるようにしていく。そしてお肉は調味料に漬けておき、味が染み込むまでの間に他の作業を進めた。
「忙しい忙しい……」
普段は1人で食べるのでのんびりと作業するのだが、今日は秋を誘っているのでできる限り早く済ませてしまいたい。でないとお腹を空かせて秋が倒れてしまうかもしれない。
しばらくするとインターホンが鳴った。
「はーい」
玄関の方に返事を返しながら私は一度手を洗うとパタパタと玄関に駆けた。
「いらっしゃい」
「おう、お邪魔します」
私以外に誰もいない部屋に秋は挨拶をしながら玄関で靴を脱いで上がった。
私も秋もお互いの家には小さい頃から行きなれているので特段変わった反応はしない。
「荷物はソファにでも置いといて」
「おっけー」
「手洗いうがいもしといてね」
「はいよー」
来なれている分、私の家のどこに何があるのかもよく知っているのでいちいち説明を加えなくて済むので楽だ。
私は秋が手洗いうがいをしに行っている間に食器類だけは先に並べてしまう。あとはペースを上げて作った料理の仕上げを済ませるだけで完成。
「んぁ、なんかめちゃくちゃいい匂いが一気に漂ってきた」
そう言うとくんかくんかと犬のように部屋に満ち始めた料理の香りを嗅ぎ始めた。
「もうすぐ出来るから座っててね」
「うん、分かった」
椅子に座ったはずの秋からなぜか視線を感じながら最後の仕上げまでを終えると私はそれを皿に盛り付けて運んだ。
「はい、完成だよー」
✲✲✲
あっさりと平らげる秋には感心しつつ私はお皿を下げるとシンクで洗い始めた。
「あ、俺も手伝う」
「秋はお客さんだから座ってるの」
「いや、でも母さんにご馳走になるんだから皿洗いくらいして来いって言われてるし」
「まぁおばさんならそう言うかもね」
「だろ?それに普通にこれくらいはしないとなって俺も思うし」
「なるほどね」
秋の言い分は十分に理解できるし、私も同じ立場だったら同じことを言うと思う。そしてそれと同時に私の"秋はお客さんだから"という言い分も十分納得できるものだとは思うのだ。
しかし、それ以上に私が遠慮する理由が存在する。
「秋の言い分は分かったよ」
「だろ?だから俺も手伝う」
「でもね」
「でもね?」
息を吸ってから私は隣に立つ秋の方をちらりと見て私は一言呟く。
「秋の体が大き過ぎて私が潰れちゃいそうになるの」
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