第313話.お怒りの理由
先輩達と一緒に校門に向かうと、その先でスマホを触りながら突っ立っている秋の姿が見えた。
「江草ちゃん行かなくていいの?」
蒼先輩が楽しそうに微笑みながら私にそう尋ねてきた。一瞬にして顔に熱がこもるのを自覚するが、空は暗い。きっと真っ赤に染まった顔は先輩達にはバレていないはずだ。
「す、すみません。先に行きます」
「うん、じゃあまた明日ね」
「はい」
背中を先輩達に見せながら私は秋の元に駆けた。
スマホを弄っていた秋は足音で気付いたのか私に視線を移してくる。
「お、早苗お帰り」
「うん、ただいま……なの?うん?」
「ま、そこはなんでもいいさ。んな事よりも先輩達はいいのか?置いてきてるみたいだけど」
あっけらかんとした口調で普通にそんなことを聞いてくるものだから、私は思わず秋の頬をキリリと抓ってしまった。
「いたたた……離してー」
「ふんっ!」
「な、何で俺頬っぺた抓られたの……」
「自分の胸に手を当ててみなさい!」
全く、何でこんなやつ相手にいちいちドキドキとしなければならないのだ。そもそも秋が待っていたから私は急いだというのに!
ぷいっと秋のいる方とは違う方向を向きながら私は歩き出す。その後を着いてくるようにして秋も歩き出し、私達は帰路についた。
「な、なぁ?本当に俺何かしたっけ?」
180を越える身長を有している人間とは思えないほどに小さくなりながら秋は私にそう尋ねてくる。
なぜ分からないのだ。あなたが私の事を待っていたのだろう?と、素直に言えればいいのだが、生憎私もそんなに簡単な性格をしていない。私だって蒼先輩曰く『恋する乙女』らしいのだ。多少は秋にだって気付いて欲しいのだよ。
「つーん」
「い、いや、そんなつーんってされても困るんだけど……」
「つーん!」
「えぇ……これ俺が当てないといけないの?」
「つん」
「うん、みたいなノリでつんって言うのやめようね」
ツッコミは綺麗に入れるのだなと思いながら私はむむむと悩む秋の顔を横目に見た。
昔から見慣れている分特別視することは無かったが、やはり第三者からしたら秋はかなり端正な顔立ちをしているのだろう。シャープな輪郭にまっすぐ綺麗な鼻筋。奥二重の切れ長の目はなんでも切り裂いてしまいそうだ。
「うーん……お腹空いたとか?」
「ふんっ!」
「んっ!?……は、腹パンは……バタンキューですぜ……」
女の子に失礼な事を言う秋が悪い。
お腹を擦りながら秋はまた思考し始めた。
「んー、見たいドラマがあるからとか?」
「違う」
「あ、今度は腹パンされなかった」
「されたいの?」
「いいえ全く」
ブンブンと首を横に振りながら秋は冷汗をかいていた。
「ほら、はーやーくー。答えてみなよ」
「えー?新しいゲームの発売日とか?」
「私がゲームをする時は秋の家におじゃましてるでしょうが」
「あ、そうだった」
「はぁ……何で忘れてるの」
ちょっと呆れながらため息をつく。
しょうがない、このまま時間をかけても答えに辿り着く気が全くしないのだ。もう私から答えを言おう。
「正解はね、秋が私のことを待ってくれてたからだよ」
「……え、それだけ?」
「それだけ?って……それが一番の理由だからね!?蒼先輩に行かなくていいの?って気を使われたからね!?」
「そ、そうか。いや、いつもの早苗なら先輩を優先するかと思ってたからよっぽどの理由があるのかなって勝手に思ってた」
「別にもう何でもいいけど」
今の私にとっては秋の事の方が優先すべき事なのだ。それを伝えていないから優先している事は分からなくても仕方がない。けれど『秋が待っていたから急いだ』この事実くらいには気付いて欲しかった。と、心のどこかで私は思う。
「もういい切り替える。ねぇ秋」
「ん?」
「今日は私の家で晩ご飯を食べなさい」
「いいのか?」
「うん、作る。というか1人寂しいからたまには話し相手になって」
そう投げやりに言いながら私は秋の方を向いた。
「それで来る?」
「そりゃもちろん!いや〜、早苗のご飯楽しみだな」
満面の笑みを浮かべながら平然とそう言うのでこちらの方が恥ずかしくなってくる。
全く……私ももっと素直になればいいのに。
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