第311話.普通のお昼の日常

 パンの耳を丁寧に取り続ける刻を横目に見ながら私はトマトやレタス、卵などの準備を進めていた。

 まな板の上には綺麗な輪状に切られたトマトとちょうどいいサイズにちぎられたレタスがあり、卵は現在鍋の中でグツグツと茹でている最中だ。

 今から作るサンドイッチの完成予想図は、コンビニなどでもよく見るいわゆるトマトとレタスのたまごサンドだ。シンプルゆえに作りやすくまた食べやすい。あとは、この他にもツナサンドやハムサンドと作る予定ではいるが、ひとまずはこれで手順を頭に入れて作業の効率化を図るのだ。


「このパンの耳って後で食べるのか?」

「そりゃあね。もったいないから後でお菓子にでもアレンジするよ」

「へぇ」


 パンの耳は油であげた後に砂糖をパラパラっとまぶすといい感じに甘いお菓子になるのだ。昔はよくお母さんが作ってくれていた。


「おたま取ってくれる?」

「ん、どうぞ」

「ありがと」


 刻からおたまを受け取ると私はそれを使って沸騰したお湯の中からゆで卵を掬い出した。そして取り出した卵を一度小皿の上に避難させ、指先を冷水で冷やした後に卵を手に取る。

 卵をもう一枚のまな板の上に置き、ぐしゃりと潰れない程度に抑えながら転がすと満遍なく全体にヒビが入った。そこから取っ掛りを探して殻を剥いていく。ものの1分もしないうちにつるんと白い卵が出てきた。

 この作業をあと三回ほど繰り返した後に、私は卵を斜めに薄く切っていった。こうすることで非常に挟みやすくなる。あとは食べやすい。


「パンの耳取り終わったぞ〜」

「ちょうどいいタイミング!じゃあ刻はこれを使っていい感じに挟んでくれるかな?私はその間に次に挟むやつとパンも用意しとくからさ」

「ん、了解」


 次の作業の指示を終えたら私達はまた作業に戻った。



✲✲✲



 ダイニングテーブルの上にサンドイッチの盛り付けられたお皿をことりと置く。うむ、なかなか悪くない出来ではないだろうか。

 思っていたよりも上手くいったことに満足しながら私は「ふふっ」と笑った。


「さ、食べよっか」

「だな」


 手を合わせながら一緒に「いただきます」と言うと私達は出来たてのサンドイッチを手に取る。

 口元に運びパクッと食べてみるとレタスやトマトの瑞々しさが口いっぱいに広がった。


「美味しいね」

「うん、美味い」


 満足そうに笑いながら刻は順調にお皿の中身を減らしていった。


「よく食べるねぇ」

「あ、ごめん、蒼も食べたかった?」

「いや、どんどん食べてくださいな。私は全種類を少しずつ食べれたら満足だから。それに刻が食べてるのを見るの好きだし」

「そう?ならお言葉に甘えさせてもらおうかな」


 しばらくすればお皿の中身はすっかり空になっていた。


「ご馳走様」

「お粗末さまです」

「うん、また食べたいな」

「気に入った?」

「うん、美味しかったから」

「じゃあ、また作ってあげよう」


 空になったお皿を下げると私はシンクで洗い始めた。

 初めは刻がやってくれると言っていたのだが、何だかあんなに美味しそうに食べてくれると嬉しくなってしまって、つい私が代わってしまったのだ。


「明後日から学校だな」

「だね。あ、羽挟先生から出された英語の課題やらないと」

「本当だな。後で一緒にやろうか」

「うん、そうしよう」


 この後の予定を決めると私は素早く作業を終わらせる。

 手を拭きながら課題の用意をすると私は刻の隣に座った。


「じゃあ、教えてもらおうかな〜」

「一度自分で解くっていう選択肢は無いのね」

「えへへ〜、分かんないもん!」

「はぁ……さいですか」


 呆れたように笑いながら刻は私の頭を撫でる。


「じゃあ始めるか」

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