第310話.朝食の準備

 目を覚まして時計を見ると時刻は既にお昼を回っていた。昨日のUSJと夜の方で体力を使い過ぎたためだろう。

 足腰に満遍なく疲労が溜まっていて立ち上がるのも億劫だ。

 隣を見れば刻はすやりと気持ちよさそうに寝ている。私も朝が得意なわけではないが、刻はそれ以上に得意ではない。だから体力とか関係なしにいつもゆっくりなのだ。


「呑気さんだなぁ」


 つんつんと頬をつつくと少し反応を見せながら表情を変える。そんな様子の刻を愛おしく思いながら私はさらりと頭を撫でた。


「さてと、朝昼兼用のご飯にしようかな」


 時刻が時刻なだけにこの短スパンで食事を二回摂るというのはいささか健康面的にも、あと単純にお腹の容量的にもキツいしよくない。となると少し量を多めに作ったお昼ご飯辺りが丁度いいのだ。

 ベッドから立ち上がりながらそんな事を考える。

 キッチンに向かいエプロンを取って付けると、まだ少し回っていない頭を使いメニューを考えた。

 寝起きだからあまり脂っこいものは避けたい。あとはサラダも欲しいな。でもってそれなりに沢山量を摂るとなると……うむ、難しいな。

 しばしの間考えてみるもののあまり思い浮かばないので、私は私よりも圧倒的に料理歴が長いお母さんに聞くことにした。


『何か朝昼兼用のご飯でおすすめのメニューってある?』


 送信してから即座に既読の文字が付き返信が返ってきた。


『朝昼兼用ならサンドイッチとかどう?アレンジが効くし、パンの用意とか挟むものの用意はちょっと大変だけど刻くんと作ったら楽しいかもよ?』

『なるほど、参考にしてみるね』

『そうしてみなさいな。ところで何で朝昼兼用?』

『いや、ちょっと2人とも遅くまで起きてたから朝に起きれなくて』

『ふーん?蒼ちゃんと刻くんは夜中何をしてたんだろーね?お母さん気になっちゃうな〜?』

『教えなーい』


 最後に「べー」と舌を出している猫のスタンプを送ると私はスマホの電源を落とす。

 おそらくというかほぼ確実にあの人は気付いているだろう。私達が昨日の夜何をしていたのか。というか気付いた上でその詳細を聞こうとするってなかなかだとは思わないかね?実の娘のそんな事情、聞きたくなかろう?

 そう思ってはみるものの、あの人の事だから聞きかねないということは否定しきれないのだ。


「さてと、てことは刻の事を起こさないといけないのか」


 本当はご飯ができるまで寝かしてあげようと思っていたのだが、作業が増える分手伝ってもらわないといけない。もちろん卵を割る作業は私がやるけれども。

 エプロン姿のまま寝室に移動すると刻は変わらない姿勢のまま気持ちよさそうに寝ていた。


「本当に気持ちよさそうに寝るよね」


 さらりともう一度だけ頭を撫でやった後に私は肩を揺すり始めた。


「んん……」

「ほら旦那様〜起きて下さいな〜」

「んー……起きる」

「お、今日は素直」


 前は少し粘って10分間プラスで寝ていたのに今回は思っていたよりも早起きだ。いや、起こしてもらっている時点で早起きも何もないのだけど、刻にしては早起きだ。

 のそのそとおもたそうに体を起こすと私の方を向いた。


「どうしたの?」


 ベッドの縁に腰かけながらそう聞くと刻は私の事をギュッと抱き締めてきた。


「刻?ど、どうしたの?起きるんじゃないの?」

「ん……少ししたら起きる」

「そう……じゃあ少しだけこのままね」


 私も刻の背中に手を回しながらゆっくりとさすってあげた。

 刻が呼吸をする度に息がうなじの辺りに当たってくすぐったいが、それらも含めて全部気持ちいいので自然と柔らかな気持ちになる。

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