第307話.リラックス

 おおよそ全てのアトラクションを乗り終えると、時刻はちょうど閉園間近になっていた。

 私達は足早に入口のメインストリートに戻り、目星を付けておいたお土産を手分けして購入すると、店の外で待つ。

 目の前を流れる人の波はぞろぞろと出口の方に向かっていき、自然とこの時間が終わることを告げられている気がした。


「どうしたんだ?ぼーっとして」


 後ろから不意に声をかけられて私は振り返る。


「あ、おかえり」

「うん、ただいま」


 刻の手には私以上に沢山の袋が握られており、少し負担をかけすぎてしまったかなと反省する。対する私は確かに荷物を持ってはいるものの、両手に一つずつなので負担がかなり少ない。


「私ももう少し持とうか?」

「いや、これくらいは俺が持つ」

「でも、電車の中とかそんなに荷物多いと大変でしょ?」

「んー、じゃあその時だけ持ってもらおうかな」

「うん!分かった!」

「何で嬉しそうなんだよ」

「さぁ、なんででしょ〜?」


 嬉しい理由なんてシンプルに刻に頼られたということ以外は無いのだが、その事は話さないことにしよう。


「ほら、帰ろ?」


 刻の顔を覗き込むようにしながらそう誘うと「そうだな」と笑いながら私の誘いに刻は乗ってくれる。

 さて、帰ろう。我が家へ。



✲✲✲



 目の前に広がるのはもうすっかり見慣れた我が家のリビング……ではなく、心地のいいBGMの流れるファミレスだ。

 本当は家に直帰してもよかったのだが、大阪から神戸に帰るとなると1時間以上かかってしまい、どうしても晩ご飯が遅くなってしまう。それならばもう今日は外食で済ませてしまおうかという魂胆で現在に至るわけだ。

 目の前ではメニュー表を指さしながらどれにしようかと悩む刻の姿が目に映る。

 グッズを買う時にも少し思ったが、何かを選ぶ時の刻の表情は少し幼くて見ていて飽きない。


「……」


 だからついつい無言で見入ってしまうのだ。


「……そんなに見られると少し恥ずかしいのですが」

「大丈夫、私は恥ずかしくない」

「いや、俺が恥ずかしい」


 会話のようで噛み合ってない言葉のやり取りをしながら私も刻と一緒にメニューを選び始めた。といっても今日1日ずっと歩き回って疲れたから、スタミナを回復できそうなお肉系の料理一択なんだけども。

 大まかなジャンルは選んでいたので私はさして時間も掛からずに料理を選び終える。そして私よりも先に選び始めていた刻も決まったようで、私達はベルを鳴らして店員さんを呼ぶことにした。

 少ししてからやって来た店員さんに注文をすると、あとは料理が届くまでゆっくり雑談タイムとなる。


「今日は楽しかったね」

「だな」

「しかも明日は土曜日でお休みだよ!」

「まぁ、学校をサボって来たわけだしな」

「あはは、そうだねぇ」


 何気ない会話を交わしながら、ドリンクバーで取ってきていたオレンジジュースをチューっとストローで飲む。

 口の中は潤わされ柑橘系の香りも広がった。


「明日は何時に起きようかな」

「ゆっくり寝なさいな」

「じゃあ刻を抱き枕にして寝るね」

「苦しくない程度で頼みます」


 うん、やっぱり刻との会話が一番リラックス出来る。


「ねぇ、刻」

「うん?」

「好きだよ!」


 私の言葉にポカンとする刻を見ながら私はクスリと笑った。

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