第305話.眩しい
ひとしきりお土産を見て回り、よさげなものの目星だけ付けておくと私達はまたアトラクションに戻る。目星だけつけたのは荷物を持った状態で歩きたくなかったからで、USJが閉園する少し前にまた買いに行く予定だ。
3時頃になってくると段々と日の高さが落ちてくる。その影響か、顔の丁度横から照らされるような形になるので光に背を向けていない限りずっと眩しい。日の温かさで寒さを緩和できるからまだいいのだが、緩和できると言っても気持ち程度の話だ。完璧とまではいかない。
「眩しいし、風が吹いたら寒いし、せめてどっちかにして欲しいよね」
「まぁ、それは仕方がないだろ。晴れてくれなきゃここまでUSJを楽しむのだって難しかったわけだし」
「それもそうだけどさ」
刻の言うことに納得は出来るのだが、それでも気を取られてしまう事には変わりない。
望みとしては何も気にせずにただひたすらにこの時間を楽しむ。それが出来たらどれだけいいか。
「次はあっちのクモのところに行くか」
刻が指をさした方向には、そのクモに関連したヒーローが蜘蛛の糸を出している大看板が飾ってあった。
ヒーロー映画自体はあまり見ない私でも、このヒーローは知っている。日本でも馴染み深いし、何より普通にかっこいい。『親愛なるご近所さん』ってすごくいいと私は思うのです。
アトラクションに乗るために列に並び、並んでいる間はクモさんに関連した展示物を見れるわけだが、思っていたよりもしっかりとしている。アニメーションも再生されているし、各キャラクターの説明書きもあったので初めての人でも分かりやすい良心設計だ。
しばらく並んでからキャストの人の姿が見えてきた。どうやらアトラクションで使用する3Dサングラスを配布しているらしい。
私は刻の分も受け取ると手渡す。
「ん、ありがと」
「どういたしまして」
試しにかけてみるが、私視点からの景色自体は少し薄暗くなった程度で何も変わらない。ただ刻の方を向くと刻はなぜかくすりと笑う。
「似合ってない?」
「ううん、似合ってないと言うよりも、ちょっと新鮮な感じがしただけ」
そう言いながらパシャリとスマホで私の顔を撮ると刻はその写真を見せてくれた。
未だに被っている赤い帽子に、ハーフアップにまとめた黒い髪の毛。そしてそんな姿の女の子、つまり私の目元には、キラリと銀色に輝くレンズのサングラスがかかっているのだ。
確かにこの姿を見ればくすりとくるのも分かる。
あとは端的に言えば面白い見た目なだけで、可愛くはない。
……出来れば刻の前では常に可愛くありたい。
無言でサングラスを外すと、私は静かに刻のおでこにかけた。アトラクションの乗り物に乗る前には返してもらうが、それまでは刻に着けていてもらおう。なぜかは分からないが、意外と似合っているので問題は無いはずだ。
ヒーローに会いにいくために、私は私のヒーローと一緒に先を目指す。
頼り甲斐のある意外にもがっしりとした手を握って、私達は先へと歩みを進めるのであった。
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