第15話.今からあなたを連行します!

 華山と凛が仲良くなったその日、凛は部活動見学という事で放課後は俺達と行動を共にした。今日の活動場所は学校の風景写真を撮る活動なので学校の外に出る必要はなく、俺達はそれぞれ自分の撮りたい場所に移動している。


「よし、よく撮れてるな」


 中庭で自分の撮った写真を眺めていると、凛が後ろから声をかけてきた。


「刻くんは何を撮っているの?」

「ん?あぁ、鳥だよ。この中庭って基本人がいるから鳥があんまいないんだよ。だから貴重なシーンを撮ろうと思ってな」

「ほへー」


 凛はなるほどと言った風な様子で頷いている。

 また写真を撮りに戻ると、そこからしばらくの間俺は黙々と写真を撮っていた。だが、凛はなかなか空宮や華山の方へ行かない。

 気になった俺は凛の方を向き聞いてみた。


「なぁ凛」

「な〜に?」

「凛も写真撮ってみるか?」


 そう聞くと凛は驚いた顔になる。


「いいの?そのカメラ学校のじゃないでしょ?」

「確かに俺のだけど、別に貸すぐらいはなんともないぞ?凛なら壊さないだろうし」

「うん、確かに僕はものを大切にするほうだから壊さないだろうね」


 凛はそう言うとその大きい胸を反らして自慢げにドヤる。

 あの……たゆんたゆん揺れてますね。目のやり場に困るから出来ればそのポーズは控えてもらえると俺的にはありがたいんですけど。駄目ですかね?

 気付かれない程度に目を逸らしカメラを凛に渡す。


「ほら、壊さないなら使っていいぞ」

「ありがとね」


 凛は俺からカメラを受け取ると早速写真を撮り始めた。

 パシャリ、パシャリ、パシャリとリズム良くシャッターを凛は切っていく。


「んふふ〜良い感じだ♪」


 撮れた写真がお気に召したのか、白い頬を朱に染め可愛らしい笑顔になる。写真を見るために目にかかった髪を耳にかける仕草はとても絵になっていた。


「どんなのが撮れたんだ?」

「ん?これだよ〜」


 凛から撮った写真を見せてもらった。見てみるとそれは夕日に照らされてオレンジ色になった雲。

 遥かに予想を上回る技巧にどうしても驚きを隠せない。


「凛」


 俺は名前だけで凛を呼んだ。

 凛は少し驚いた様子でこちらを見る。


「な、何かな?」

「この写真後で華山に見せてもいいか?」


 そう言うと凛はまた驚いた様子を見せた。


「僕の写真なんて華山さんに見せられないよ!?別に上手くないし」


 凛はそう言って謙遜した。

 だが俺から見たらこれは十分に上手く撮れていると思う。少なくとも俺よりかは遥かに上手い。

 だが、撮った本人が見せれないと言っているのだ。無理に見せようとするのも違うだろう。


「そうか、良い出来だとは思うんだけど、凛が嫌なら仕方ないな」

「うん、もっと上手くなったら見せてもいいから、それまで待っててね」


 凛はそう言い俺にカメラを返してきた。



✲✲✲



 時刻は6時。完全下校時間の15分前だ。俺達PhotoClubのメンバーと凛は一度部室へと戻り、帰る身支度を始める。

 空は月がはっきり見える程度に暗くなり、運動部から聞こえていた掛け声も次第に聞こえなくなっていた。

 俺達は身支度を済ませると廊下に出る。そして部長である華山が鍵を閉めた。


「忘れ物とかはないですか?」


 華山がそう聞いた。


「ないよ〜」

「ないぞ」

「大丈夫だよ」


 聞かれた俺達は各々華山に返事をする。


「ふいー、今日は疲れたなぁ〜」


 空宮は相当疲れていたのか身体を伸ばしている。確かにカメラを使って一つの物を集中して撮ろうとすると肩を凝るのだ。俺もよくなる。


「お疲れ様です、蒼さん」


 空宮に共感していると華山が空宮に対し労いの言葉をかけている。そんな様子を俺は2人の後ろから見ていると右隣にいる凛から声をかけられた。


「ねぇ、刻くん。この後は暇かい?」

「暇だけど」

「そうか、それならよかった」


 凛はそうとだけ言うと前を歩く2人にも何かを話始める。

 出来れば俺にも詳しい内容を教えて欲しかった。暇かと聞かれただけで、結局は何が目的なのかいまいち分からない。

 話し相手がいなくなってしまったので、スマホで暇つぶしにネットニュースを眺めながら歩く


(へー、あのアイドル卒業するのか。よくは知らないけど)


 そんな風に歩いていると俺はまた急に声をかけられた。今回は前から。


「刻くんもそれでいいよね」

「んぁ?うん」

「オッケー」


 俺はとっさに答えたが、はたして何がそれでいいのかはよく分からない。ちゃんと話聞いとくんだったよ。

 過去の行動を後悔しつつ、3人の後ろを歩く。

 ただ歩いていると割とどうでもいい事に気付くこともある。 例えば、こんな美人が3人も同じ場所にいると俺の存在かき消されそうだからちょっと心配、とか。そんな事。

 脳内で複数の自分と会話をしながら校門まで歩く。すると3人が振り返り空宮が口を開いた。


「刻、今からカラオケに向かうよ!」

「は?」


 突然発せられたカラオケという単語。俺はその瞬間硬直し、暫く動けなくなった。というか、脳内での整理が追いついていなかった。


「えーと、またなんで急にカラオケ?」


 俺は何とか整理をして空宮に聞いてみる。すると帰ってきた言葉はこういうものだった。


「ほら、さっき刻にそれでもいいよね?って凛が聞いてたじゃん!それに暇って言ってたし」

「あぁ、確かに言った」


(確かに言ったよ?でもさ、カラオケ行くとまでは聞いてないんだよな、これが)


 俺は「マジかー」と呟いていた。すると凛が俺に声をかける。


「ほら、ぼーっとしてないで行こうよ。僕の美声を聞かせてあげるからさ」


 凛はそう言いながら俺の手を引いた。

 傍から見たら、女子に手を引かれるという羨ましいシチュエーション。だが現実はほぼ強制連行。

 強く生きよう、そう思えるようになりたい。


(早く帰りたい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る