第14話.初対面
凛がこの学校に転校してきて一週間が経った。
凛はしばらくの間、引越しの手続きやらなんやらでバタバタしていて放課後に会うという事はほとんど無かったが、どうやら今日は暇らしい。
「という事で刻くん蒼ちゃん、僕とカラオケに行かないかい?」
「どういう事だよ……」
話が噛み合うどころか、話の歯車を一個だけ手に入れたみたいな状態になってる。
何も噛み合わないから何も回らない。
「カラオケいいじゃん行こうよ」
「いや、空宮今日部活あるぞ?」
俺は一応部活がある事を空宮に伝えた。
「あっ!そうだった」
忘れるなよ。華山が可哀想じゃないか。
「部活?」
凛が部活って何だっけ?とでも言いたげな顔で首をかしげている。腕を組みその白い頬に指を当てながら考える様子は、とても様になっていて、目を閉じているとその凛の長いまつ毛がとてもよく目立つ。
だが、そんな凛の様子に見とれているのもおかしいので、俺は口を開いた。
「部活ってのは、一言で言えばいわゆるクラブだな」
「あー!クラブアクティビティ!」
合点がいったためか凛は笑顔になる。
その笑顔から溢れ出る温かい雰囲気は、凛を中心にクラス中に伝播する。周りの男子からは「やっぱり凛さん可愛いな」とか、「あ、今こっち見てくれたぞ」とかそんな事を話していた。
だが、周りの男子のことはどうでもいい。俺はすぐに切り替えて空宮に話を振る。
「で、空宮は今日部活には行かないのか?」
「行くよ、行かないと!ユウが1人になっちゃうじゃん!」
(こいつ華山の事好きなんだな)
俺は内心ほっこりしつつ、一つだけ空宮に伝えた。
「あ、ちなみに俺は部活優先だから、空宮が遊びに行っても華山は1人にはならないぞ?」
「そっかー。でも私は部活に行くの!」
空宮は幼子のように頬を膨らませて意地になっている。
そんな空宮のテンションに完全に置いてけぼりされた凛が、口を開いた。
「ねぇ刻くん蒼ちゃん?僕の事完全に忘れてないかい?」
そう言った凛は膨らませた頬を朱に染めて拗ねていた。
「ごめんごめん。それで凛、俺達は部活あるけどどうする?」
謝りつつこの後の事を聞いた。
「そうだね。このまま帰っても暇なだけだし……」
凛はうーむと唸りながら悩んでいる。
そこまで悩む事なのだろうかとそう思っていると、その様子を見かねた空宮が口を開く。
「じゃあ部活に一緒に行こうよ。ユウも多分喜ぶよ!」
「急に行っても大丈夫かな?迷惑じゃない?」
「大丈夫だよ!ユウ優しいし!」
「なら行こっかな!」
空宮と凛はワイワイ楽しそうに話している。だけど俺は思うんだ。華山めっちゃ人見知りだぞ?コミュ障だぞ?大丈夫かしら?
「じゃあこの後どうするかも決まった事だし、部室にレッツゴー!」
「ゴー!」
2人は俺の心配を察することもなく話を進める。
✲✲✲
交流棟の二階。俺たちの校舎からショートカット出来る渡り廊下のある階だ。そこから俺達は四階にまで通じる階段を登り始める。階段を登り切るのには3分もあればすぐだ。大して体力を使わずに登れる。最初の方は死にそうだったが。
(最近のマイブームは、階段を登りきるタイムを短くすることだったりするんだよなぁ)
「華山さんってどんな人なの?」
華山を見た事のない凛が空宮に聞いた。
「ユウはねぇ、とっても可愛い子だよ!美人さん!あとは髪と目と肌と色々綺麗。それと優しい子なんだよ!」
「へー。僕仲良くなれるかな」
心配そうにする凛、多分ここ数日で初めて見た表情だ。だが、転校初日の時みたくすぐ親しくはなれるだろう。凛は悪いやつじゃないし、フレンドリーだし。
「絶対に仲良くなれるよ」
凛の心配を吹き飛ばすかのように、空宮が励ました。まぁここではそれが正しいな。ここは俺も励ますとするか。
「凛、華山には普通に接してあげてたらすぐに心を開いてくれる。お前なら出来るだろ」
「そっか、よしっ仲良くなれるように頑張ろう!」
俺達の励ましが功を奏したのか、凛はやる気に満ち溢れた顔になった。
俺達は階段を登る間そんなやり取りをしながら四階を目指す。
四階に辿り着きさえすれば、あとはまっすぐ進めばPhotoClubの部室に着く。
そんな事考えていたら、PhotoClubの部室前にある看板が見えてきた。
「あそこだよ」
俺は部室の方を指さし凛に教える。
教えた後俺は先頭に立ち先に部室に入った。後ろには空宮、凛の順番で並んでる。
中に入ると華山はパソコンを使って写真の整理をしていた。
「よお華山」
「こんにちは鏡坂くん」
俺達は挨拶を交わす。
「やっほーユウ」
後ろからは空宮も声をかける。
「こんにちは蒼さん」
華山も空宮に挨拶を返した。
さてと、華山に空宮の後ろにいる凛の事を言わないとな。
「あの、華山ちょっといいか?」
「はい、何ですか?」
華山は微笑みを浮かべながら話の内容を促してくる。
ふー、緊張するな。コミュ症の奴相手に人を紹介するのってこんなに緊張するものなのか。空宮の時は空宮がガツガツ行ってたからそこまで何も無かったんだけどな。まぁやりますか。あとは凛次第だし。
俺は心を決め口を開く。
「あのな、華山に紹介したい奴がいるんだ」
そう言うと華山は無言でカーテンの裏に隠れた。
俺は分かってましたよ隠れるって。だがこのままでは何も始まらないので凛を呼ぶ事にした。
「凛入って来ていいぞ」
「はーい」
名前を呼ぶとすぐに元気のいい声が聞こえる。
「あれ、華山さんは?」
部室に入ってきた凛は華山がいないことに疑問を抱いたようだ。でも正確にはいないんじゃなくて隠れてるんだけどね。
「華山はそこのカーテンの裏だよ」
「カーテンの裏?まぁ、いいや」
俺は華山が隠れている場所を凛に伝える。すると凛はてくてくとカーテンの方へ歩きカーテンの中を覗いた。カーテンの中からは「きゃっ!」と言う高い声が聞こえてくる。
「こんにちは君が華山さんかな?」
「は、はい……」
華山の声はまだ緊張しているように感じる。
「そっか、僕は凛・テイラー。最近越してきたんだよ」
「は、はぁ……」
「それで僕は刻くんや蒼ちゃんと幼なじみで仲が良くてね、その2人と仲のいい華山さんとも仲良くなりたくて来たんだけど」
「私と……ですか?」
華山の声には緊張は感じるが、今はそれよりも疑問に思う感情の方が感じられた。無理もない。急に現れたかと思ったら仲良くなりたいという申し出だったのだから。
「そう君と」
凛はいつもよりも柔らかな表情で多分華山に言っているのだろう。声からも柔らかさを感じる。
「……分かりました」
華山はそう言うとカーテンから出てきた。
「わ、私とお友達になってくれませんか?」
華山はそう言った。
(おぉ、まさかの華山から言うのかよ。出会った時に比べたら大分成長したな)
俺は凛を見てみると、凄く可愛らしい笑顔を浮かべていた。
「もちろん、こちらこそお願いします!」
凛がそう言うと華山も緊張が少なからず解けたのか、柔らかく微笑む。
俺はその様子を見ながらこう思った。
やっぱり女子は悲しい顔や怒った顔よりも、笑った顔が一番似合っている。華山から笑顔の見れるこの環境は多分間違ってないのだろう、そう思った。
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