第13話.幼馴染2

 凛がイギリスから日本に転校した初日。俺は色々と頭の中がグルグルとこんがらがっていた。

 急な出来事に頭の中はぐちゃぐちゃになって、思考が鈍くなる。


「刻くん、僕の事覚えてる?」


 右隣の席に座る凛から俺は声をかけられた。


「お、覚えてたよっ!?」

「本当かな?僕ちょっと心配だよ」


(ん、今この子僕って言いましたか?言ったよね?言いましたよね!?)


 思わず聞いてしまった。


「あの凛?今僕って言わなかった?」

「言ったけど?それがどうかしたの?」


 凛は、なぜ俺が疑問に思っているのか分からないという様子でその細い首を傾げている。


「いや、だって久しぶりに会った幼馴染が僕っ娘だったら驚くもんだろ?」

「そうかな〜?」

「いや、そうなんだって。というか本当になんで僕っ娘になってんだよ?昔は普通に一人称私じゃなかったか?」


 生まれてからいきなり僕っ娘ってのは多分ない。ということは、何かきっかけがあったはずなのだ。それを聞かないと、今日の夜は眠れない。


「確かに昔は私だったんだけどね、昔遊んだ時に僕って言ってた刻くんの真似して言ってたら癖になっちゃってて、以来日本語の時はこのままなの」

「あぁ、そういや一時期俺の真似してたな」


 一つ昔話をしよう。

 その昔、大体12年前に凛と遊んだ時に凛が「私も僕って言うー!」と話した事があったのだ。以上昔話終了っ!


「そうそう、だから今さら一人称を私にも変えれなくてね」

「あー、なんかごめんな?」

「そうだよ!」


 そう言うと、急に凛が俺の耳元に近付いてきた。


「だから、その責任……色々と期待してるからね」

「ん!?」


 急な出来事に俺は声が出なかった。不幸中の幸いというか、周りの男子はこの事に気付いていない。


「ひ、ひとまず離れろっ!」

「ふふっ、ごめんごめん」


 俺は何とか凛をひっぺ剥がす。

 耳に熱が籠ってる。多分この教室暑いんだな。うん、そうに違いない。だから、決して俺の鼓動の音はうるさくない。



✲✲✲



 昼休み。

 食堂で弁当を買い、いつもの定位置に行く。ただ周りから奇異の目で俺は見られていた。それもそうだろう。こんな美人がそこまでパッとしない普通の男子と一緒にいるんだから。


「あの、なんで一緒にいるの?」

「だって学校の事のよく知らない、ついでに教えてもらおうと思って」


(ついでなのね)


「あとは、一緒にご飯が食べたかったから…って言う理由じゃだめかな?」

「い、いや別にいいけど」


 だめだ、この子の自覚のない可愛さがやばい。


(華山の時もそうだったけど、これ他の男子にしちゃだめだぞ?勘違いしちゃうから)


 心の中で凛に忠告していると凛が口を開いた。


「刻くんはどこでご飯食べてるの?」

「ん?あそこのベンチ」


 俺はそう言ってベンチの方を指さす。

 指の方向を凛は向いた。


「あそこか、日が当たって暖かそうだね」


 そう凛はベンチを見た感想を言った。

 よく分かってる。いい具合に太陽の日が当たるから寝るのにちょうどいいのだ。


「さ、刻くん食べよっ!」


 凛はそう言うと手招きをして俺を呼ぶ。俺は小走りで凛の方に近付いて隣に座った。


「「頂きます」」


 ほぼ2人同時にご飯を食べる前の挨拶をし、弁当の蓋を開けて食べ始めた。


「美味しいね〜」

「そうだな」

「この唐揚げ貰ってもいい?卵焼きあげるからさ」

「別にいいぞ」


 仲良しこよしなお友達同士がしそうな弁当のおかず交換を楽しむ。なかなかこういう事ってしない。俺の場合こんな事をする相手がいなかったから余計に。

 そんな事を考えていると、ふと気になった事があったのに気付いた。


「そういや凛はどこに今住んでんの?昔の家?」


 そう聞くと凛は素直に答えてくれた。


「昔の僕の家は引っ越す時に売っちゃったから、今は摩耶駅の近くのマンションに住んでるよ」

「摩耶か」


 家から摩耶駅まで大体電車に乗って約13分程度。高校生からしたら大した距離ではない。


「駅が近いから便利なんだよ〜、ママも喜んでた」

「あの、すんごい明るいお母さんな。ご両親は元気にしてるのか?」

「ママは元気だよ。多分パパも元気」

「……え、多分?」


(あれ、もしかして聞いちゃいけなかったパターン?)


「パパはイギリスに残ってるの。私がどうしても日本の高校に行きたかったからママが着いてきたって感じ」

「そういうこと」


 少し早く動く心臓に手を当てて落ち着こうとしていると、凛が口を開いた。


「そうだ、刻くん今日家来る?」

「え?」

「久しぶりに会ったしさ、ママもみんなと会いたいって言ってたから」


 まぁ、今日久しぶりに会ったわけだし、もし俺達の母親同士で連絡が付いてるのであれば同じ学校に行くことも把握出来るか。


「分かった、空宮と一緒にお邪魔させてもらうよ」

「うん!蒼ちゃんともいっぱいお話しなきゃ!」


 そう言って凛は笑った。

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