第11話.休日の夜

 てくてくと現と2人で住宅街を歩く。

 この様にしたのはいつぶりだろうか。もう何年も2人で並んで歩くということは無かったはずだ。俺が高校に入り、現もその一年後に高校生になった。俺も現も思春期真っ盛りなのだ。

 だから高校生兄妹がこんな風に歩く事が必然的に減った。というか無くなった。


「こういうの久しぶりだね」


 現がそう言って口を開いた。


「何が?」

「こうやって2人で歩くの」


 どうやら同じ事を考えていたらしい。

 兄妹は考える事も似るのか。


「そうだな」


 俺は答えると、沈黙が訪れる。

 だが、ただ話題が無くなっただけなので、兄妹同士気を使う必要はない。

 家から5分程歩くと空宮の家が見えてきた。

 空宮には行くとだけ連絡を入れておいたからか、玄関の前にはこちらを向いた空宮が笑顔で手を振っている。


「よお、朝ぶりだな」

「よっ!朝ぶり!」

「蒼姉こんばんわ〜」

「むむっ」


 空宮に挨拶をする。

 でもって、現が挨拶すると空宮は警戒する。


(そんなに怖い?現は空宮の事好きなだけだと思うんだけど)


「まぁここで立ち話はなんだし、早速家に入ってよ」


 空宮は切り替えたように俺達を家に招待する。


「お邪魔します」

「お邪魔しまーす」


 空宮の家に入ると、奥の部屋からパタパタと足音が近付いてきた。


「あら、いらっしゃーい!刻くん現ちゃん!」

「こんばんは、おばさん」

「お久しぶりです!」


 おばさんに挨拶をする。

 まぁ、当然の事だが今日料理作ってくれるのはこの人だし、挨拶はしっかりしないと。


「現ちゃん久しぶり〜、おっきくなったねぇ。それと刻くんも久しぶり。それと私の事はおばさんじゃなくて、お姉さんって呼んでって言ってるでしょ?」

「あはは……」


 俺には愛想笑いしかできない。

 いや確かに空宮の母さんは若い。それはそれは非常に若い。なんなら、空宮と姉妹って言われても信じる。けれど、幼馴染の母親にお姉さんとは言いにくいとは思わないか?


「もー!お母さん刻困ってるでしょ!」


 空宮がおばさんを止めに入ってくれた。だが相手はその空宮の実の母親、簡単に止めれるわけがない。


「ちょっと位いいじゃない。久しぶりに会ったんだから!」

「良くない!40手前のおばさんが何言ってるの!」

「な!?よ、40……」


 空宮親子の言い合いを見てると、何か割と直ぐに決着がつきそうに見える。

 なるほど、年齢という恐ろしいものを使えばいいのか。って、それは親子だから使えるんだよなぁ。


「ほらっ、刻と現うつみちゃん靴脱いで上がった上がった!」


 空宮は俺達の背中を押して、家の中に入れた。


「お、押すなよっ!」



✲✲✲



 俺達は空宮家のダイニングテーブルで食卓を囲んでいる。

 メニューはクリームシチュー。おばさんの得意料理だ。


「ん〜、美味しいっ!」

「美味しいね〜」


 現と空宮は同じようなタイミングで舌鼓を打つ。

 やっぱり仲良しだよなこの2人。


「それなら良かった♪」


 おばさんは安心したように笑顔になった。

 浮かべる笑顔は本当に空宮に似ている。


「そう言えば刻くん、部活は蒼と一緒の所に入ったんだってね」


 ふとしたタイミングでそう聞かれる。


「はい、俺が先に入ってたんですけどね」

「別にそこ関係なくなぁい?」

「関係は無い事もないと思うが」


 そんな事で言い合ってると、おばさんが仲裁に入る。


「はーいはい、そこまでよ?言い合ってないで仲良くしなさい」

「別に言い合ってなんかないよ!」


 空宮母は優しく言い、空宮は頬を膨らませながら言い返す。

 仲良しだねぇ。


「それで部活はどう?」


 空宮母は空宮の事を制しつつ、部活の話にまた戻った。


「部活は思ったよりも楽しいですよ。疲れないし、俺と似たような奴がいますし」

「ほう、刻くんと似た子ね〜。男の子?女の子?」

「女子です」


 そう言うとおばさんは驚いたような顔になる。

 そんなに驚くことだろうか。俺みたいなやつは男女関係なく結構いそうなものだが。

 そんな事を考えていると、空宮とおばさんは何かボソボソ喋ってる。


「蒼、ちゃんとアタックしとかないと、その女の子に刻くん取られるわよ?」

「な!?お母さんには関係ないでしょっ!」


(さっき俺達にあんな事言っときながら、そちらが何やら言い合いになってますけど、大丈夫?)


 するとそこに今まで傍観していた現が割って入った。


「そうだよ蒼姉!油断してると一瞬で取られるよ?」


 相変わらずボソボソ3人で喋ってるので、俺には何言ってるのかは聞き取れない。ただ分かるのは、現がおばさんの味方だったという事だけ。

 なぜ分かったのかって?そんなの、空宮の顔みたら一発で分かる。


「分かったよぉ……取られないようにアタックするから」

「それでこそ私の娘よ!」

「さっすが蒼姉!」


 どうやら話しが終わったみたいだな。

 なにやら空宮の顔が赤い気もするが熱か?


「さてと、蒼の決意表明も聞けたし残すは……」


 おばさんが何か言い始めた。

 残すは、って今残っているのはご飯だけじゃないのか?

 すると現もそこに乗っかるかのように「あれだよね!」と声高らかに言う。

 本当に何が残っているのか分かない。分かってないの俺と空宮だけらしいが、だけと言っても、ここにいる人間の半分の人数なのだ。


「今から……」


 おばさんが言うと。


「ゲームを……」


 合いの手かのように、現が次の言葉を言う。


「始めますっ!」

「ゲームは王様ゲームっ!いぇーい!」

「は?」


 どうやら今日の夜は波乱な予感がする。

 というか王様ゲームって、そもそも親が参戦するものか?

 はぁ……俺と空宮は生き残れるのだろうか?

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