第8話.休日

(本日は晴天なり、本日は晴天なり)


 そんな事を心の中でアナウンスしてから、俺はベッドから降りる。そして、カーテンをバッと開いた。

 目に映る景色は、雲一つない快晴の空!と、都合のいいことがあるわけでなく、


「……曇ってんじゃん」


 しっかりと空は分厚い雲に覆われていた。

 心の中で晴天晴天って連呼してたのが恥ずかしい。よかった、心の声が誰にも聞こえなくて。

 今日は日曜日なので、学校も部活もない。なのでゆっくり寝すぎてしまった。

 自室から出て、一階に繋がる階段を降りる。

 そしてリビングの前に着くと、中から話し声が聞こえてきた。


「今日は両親とも仕事だし、現しかいないよな?誰と喋ってんだ?電話?」


 ドアノブに手をかけて、扉を開く。

 すると、そこには妹の現うつみと毎日の様に見るあいつの姿があった。


「……何でお前がいるんだよ」

「家近いんだからいいじゃん!それに刻全然起きないから、私が起こすようにおばさんに頼まれてるの!」


 そこに居たのは空宮蒼。みんなご存知、俺の幼馴染だ。

 というか、母さん余計な事をこいつに頼むなよ。空宮本当に来ちゃうから。というか来たから。


「ほらっ!刻朝ごはん作っといたから食べて」


 テーブルの上には、目玉焼きとサラダ、いい感じに焼けた食パンがある。非常に美味そう。


「ありがとうな」


 俺は空宮に礼を言うと、早速食べ始める。


「どう?焦げてたりしない?」


 空宮は心配そうにこちらを見る。

 一つだけ言わせてもらうとすれば、椅子に乗りながらそんなにこっちに迫らないでもらえるだろうか。顔と顔が想像よりも近くて思っていたよりもドキドキする。


「焦げてないし美味いぞ」

「そうかそうか〜。それなら良かった!」


 そう伝えるとまた食べ始める。

 すると、俺の妹である現が茶々を入れてきた。


「刻兄と蒼姉ラブラブ〜!」


 すると空宮は耳の端まで真っ赤にして慌てている。


「う、現ちゃん!わ、私と刻はそんなんじゃないよっ!」

「またまた〜、そうやって誤魔化さなくてもいいのに」

「うー……」


 うーむ、空宮が現に丸め込まれてる。

 空宮って昔から現にこういう事で勝ったこと無かったよな。


「おい現、それぐらいにしてやれ。そいつオーバーヒートしかけだから」

「えー、いいじゃん!面白いんだから」


 小悪魔シスターめ。

 空宮なんてもう目を潤ませまくってるぞ。

 さすがに止めないといけないので、俺は一発デコピンを我が妹に喰らわせる。


「いたっ!いたいよ〜」


 現はおでこを摩りながら頬を膨らませてこちらを見てきた。


「むー!蒼姉いじるの楽しいのに!刻兄のケチ!鬼畜っ!」


 何か傷つきました、今日この頃です。


「はぁ……現はさっさと友達ん所行ってこい。お前今日約束してんだろ?」

「あ、そうだった!忘れてたよ」


 現のお友達の人。ごめんね?こんな子で。でも悪い子じゃないから、これからも仲良くしてやってね?

 現はすぐに支度をするとすぐに玄関に向かっていく。


「じゃあ刻兄、蒼姉行ってくるね〜」

「おう、行ってこい」

「あ、私がいないからって、イチャラブするのはダメだよ?」


 この子は何を言っているのか。


「しないよ!」

「するか!」


 俺と空宮はほぼ同時に否定した。それと同時にドアが閉まる音が聞こえてくる。


(あいつ逃げやがったな)


「現ちゃんめ、私を弄もてあそんで……」


 空宮はまだ目を潤ませている。

 学校での勢いはどこ行ったんだよ。


「多分あいつなりのお前に対しての愛情表現だよ。だから軽く受け流す程度でいいぞ?」


 アドバイスのつもりで俺はそう伝える。


「でも、軽く受け流せる内容じゃないじゃん!さっきだって……その……」


 また、顔が赤くなっていく空宮。

 微かに俺の耳にも熱を帯びている気もするが、多分気のせいだ。それに確かに、軽く流せる内容ではなかったな。


「まぁ、その事は置いとこう。俺朝飯食べ終わったら本買いに行くけど、空宮はどうする?」


 一応聞いておかないとな。この家の住人が家からいなくなるわけだし。


「私は帰るよ?何一緒に行きたいの?」

「違うわ、ばーか」

「な!?ば、馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ!」


 俺達は子供みたいな言い合いをしばらくすると、


「じゃあ、俺は今から着替えて歯磨いて行くから、お前も俺が家出る前に帰っとけよー」

「分かった〜」


 そう言って俺と空宮は家を出る。

 さぁ、休日のスタートだ。

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