第7話.姉の心
空宮がPhotoClubに入部してから数日が経った。
初めの方は華山と空宮は話すのに苦労してたみたいだが、今は割と普通に喋ってる。たまに華山が空宮のテンションに着いていけないことも多々あるが、それは許容範囲だろう。
「ほらっ!刻もユウも置いてくよー!」
空宮が手を振って、こちらにいる俺と華山を呼んでいる。今日の部活は校外での活動なのだ。
ちなみに空宮は、華山の事をユウと呼ぶことにしたそうだ。なんでも、いちいち苗字にさん付けだと距離があるように感じるからだと。
「私達も行きましょうか?」
声のした方。つまりは華山のいる右隣を向くと、華山がこちらを下から覗くように見てる。
その長いまつ毛に、大きい目が際立つ。更にはぱっちり二重。目も透き通って純粋そのもの。
「よし、空宮を追いかけるぞ」
小走りで空宮の方へと向かう。
空宮は「早く行こ〜!」といつも通り騒いでいる。
いつも通りはとても安心する。
もしいきなり家の晩ご飯が毎日フレンチとかになったら違和感しかないからな。味噌汁の出る家でいいのだ。
いつも通り、本当に大切。
✲✲✲
訪れたのは学校からそう離れていない公園。
この時刻になってくると小学生たちが活発に遊んでる。
「いいな〜小学生。私も遊びたい」
「お前は部活で来たんだろうが」
遊びたいと言う空宮に一発手刀を入れておく。
「いでっ!」
空宮は涙目になりながら頭をさすっている。
「何すんのさ!痛いじゃん!」
「知らん」
「ひっどー!」
こんな会話をしてたら、周りのお母様方の目がなぜかこちらに向いてきた。
「ふふっ」
お母様方の目線を避けていると華山が急に微笑む。
「どうした?」
「いえ、蒼さんと鏡坂くんは仲がいいんだなって思って。それでつい」
なるほど。
確かに俺と空宮は昔っからの付き合いだから、兄妹みたいなところがあるわけだし。
「そーでしょ!昔っから私が刻の面倒見ててね。いっつも大変だったんだよ!」
「嘘はダメだぞ。面倒見られてたのはどちらかと言えば空宮の方だろ?」
綺麗な手刀をもう一発、俺は空宮の頭に食らわせておいた。
✲✲✲
今日は何を撮ろうか。
珍しく公園に来たのだ。出来れば、学校では撮れないものを撮りたい。
「ねぇ刻は何撮るの?」
「俺も今悩んでんだよ」
「そっかー」
2人して腕を組みながら、しばらくの間長考していた。
すると、その様子を見かねたのか華山がアドバイスをくれた。
「こういうのは、ここにしかないものを撮るよりも、ここだから撮れる景色を撮った方が楽しいですよ?同じ雲でも、学校から見るのと公園から見るのでは、また少し違いますしね」
華山にしては珍しく長文のアドバイスだったな。分かりやすくてよかったのだが。
「おぉ、ありがと。参考にさせてもらうわ」
「ユウありがとっ!」
「い、いえ……」
華山は少し頬を赤らめて、照れてる。
しかもわかりやすくカメラ構えて、違う所向いたし。どれだけ照れた顔見られたくないんだろうか。
(せっかく可愛いのに)
さて、いい感じに日が暮れてきたから早めに夕日だけ撮っておこうか。
俺は公園の中にある丘状になっている所に立つ。
ここからは夕日も、夕日に照らされてオレンジがかった雲も綺麗に見える。
パシャリと音を立てて俺はシャッターを切った。
「いい感じ」
撮った写真を眺めていると、空宮と華山が近づいてきた。
「今日はもう活動終わりだよ〜」
空宮にそう伝えられた。
まぁ、確かにそうだな。時間も時間だし。
「よし、じゃあ戻るか」
「うん!」
「そうしましょう」
3人横に並びながら学校に向かって歩く。
日の出る時間は伸びてきているが、それでもまだ暗くなるのは早い。
部室に着くと、華山と空宮はカバンを手に取る。
「今日は俺が鍵閉めとくわ。まだちょっとカメラの容量とかの問題で消したりしないといけないし」
「分かった、鍵お願いね刻。じゃーねー」
「鍵お願いします。さようなら鏡坂くん」
「おう」
2人を送り出した後、しばらくカメラの容量と睨めっこしてた。
すると、廊下から足跡が聞こえる。
ん?あの二人のどっちかが帰ってきたのか?
扉の方を向くと丁度扉が開いたタイミングだった。
「あれ?有理ちゃんは帰っちゃった?」
そこに居たのは、華山に似た顔の女性だった。
確かこの人は、美術科の華山亜理かやまあり先生。
というか、この人有理ちゃんとか言ったか?華山とどういう関係?
「あ、そこの君、有理ちゃんの行方を知らない?」
俺はそう声をかけられる。
「華山ならもう帰りましたよ?」
「あぁ、そうなの」
華山を見つけて何するつもりなんだ、この人?
「はぁ……今日の晩ご飯どうしよう……」
晩ご飯?
あなた晩ご飯に華山のやつ関係ある?
「何かあったんですか?」
このままじゃ埒が明かないので俺は聞いてみると、先生はこちらを向いてすんなり話してくれた。
「あぁそっか、知らなくてもおかしくないよね。特に公表してるわけじゃないし。えっとね、私と有理ちゃんは姉妹でね、今日の晩ご飯に何を食べたいか聞くの忘れてたの」
なるほどそういうこと。
(ん?てかちょっと待て。今この人華山と姉妹って言った?同じ学校に教師と生徒が姉妹で存在するのって可能なの?)
1人疑問を抱いていたが、先生が話し始めるのでそれについて考えることは出来なくなってしまう。
「あ、そういえば君はPhotoClubの部員?」
急に話題が変わって驚いたが、俺は答える。
「そうですけど。あともう1人華山と俺以外にもいます」
「そう、それはよかった」
何が良かったんだ?
確かに部員は足りなかったが。
「って、君からしたら何が良かったのか分かるわけないよね。あの子ってね昔から人との関わりが苦手で、友達もあんまりいなかったから、部員集めに苦労してたらしいのよ。でも、君たちが入ってきてくれてよかった」
「そうですか」
(華山よ、コミュ障は直そうな。お姉ちゃんを心配させたらいかんよ)
「あ、そうだ、鍵は私が返しておくから、君は帰ってもいいわよ?」
先生がそう言うので、ここはお言葉に甘えさせて頂こう。
「じゃあ、お願いします」
「はい、さようなら」
「さようなら」
俺は先生に別れを告げて、帰宅する。
空はもう暗い。早く帰ろう。
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