第6話.新入部員

「ねぇ、本当に部活入ったの〜?」


 後ろでは、俺が部活に入ったと信じない空宮が騒いでいる。


「本当に入ったから」

「本当かな〜?嘘ついたら針千本だからねっ!」


 そう言うと、空宮は人差し指をビシッとこちらに向けた。

 基本は一切嘘をついていないので、針千本を飲むことにはならなそうだ。


「ねぇどこに部室あるの?」


 相変わらず空宮は後ろで騒いでいる。


「部室はこの交流棟の四階だよ。ちなみにエレベーターは無い」

「エレベーターなんて無くても、私は歩けるっ!!」


 相変わらず元気だなと思いながら俺達は階段を上っていく。

 階段を3分程登り続けて、やっと四階に着いた。

 廊下を進むと見えてくるPhotoClubの看板。


「ん?何か看板立ってるよ?何かあるの?」


 疑問に思った空宮が俺に聞いてくる。


「あの看板の立ってる所が、俺の入ってる部活だ」

「あそこに部室があるの?」

「おう、中には写真がいっぱい貼ってんだぞ」

「ほへ〜」


 空宮は俺が部活に入っているか否かの事など忘れたらしく、今は部室に興味が向いているらしい。

 俺は空宮の方を向き手招きをする。


「おい、部室行かないのか?」

「あっ!待って今行くからー!」


 小走りで駆け寄ってくる空宮。

 綺麗な黒色をしたポニーテールの髪の毛が揺れている。

 ドアを開けると、そこはPhotoClubの部室。部屋の中では華山が、カメラの容量チェックをしていた。


「よぉ、華山」

「こんにちは、鏡坂くん」


 俺達が挨拶を交わしていると、後ろで空宮が何やらぴょこぴょこと飛んでる。


「おい、空宮。ぴょこぴょこ飛んでないで入れよ」


 そう言うと、華山は危険でも感じ取ったかのように隠れる準備をし始めた。


(隠れなくても襲ってこないんだけどな)


 そんな事を考えていると、空宮が後ろから部室に入ってきた。


「ここが刻の所属してる部活!」


 目をキラキラと輝かせている空宮に対し、やはり華山は怯えてる。


(というか、なんでカーテンの後ろに隠れるの?足見えてるよ?)


「あの、鏡坂くん。その人は……どなたですか?」


 カーテンの向こうから華山は声をかけてくる。


「あぁ、紹介してなかったな。こいつは俺の幼馴染でクラスメイトの空宮蒼だ。ほら、空宮も挨拶しろ」


 空宮にそう言うと、俺は部室の椅子に座りカメラの準備を始めた。


「空宮蒼です!いつも刻がお世話になってます。えーと、華山さんだったっけ?よろしくね!」

「は、はぁ……」


 華山は、驚きと戸惑いを隠せていない。

 無理もない。いきなりこんな奴が来たんだから。部室の場所が空宮にバレたのは俺のせいでもあるけど。


「ねぇ、刻」


 驚いている華山をよそ目に、空宮は俺に近づいてきて話しかけてきた。


「なんだ?」


 ここまで来て、まだ疑うなんてこともないだろう。何を俺に聞こうと言うのだ?


「私、この部活に入るっ!!」


 ……ん?

 今非常に不思議な日本語が聞こえた気がしたが、おそらく聞き間違えだ。イヤホンのし過ぎなのだろう。気を付けないと。


「あれ?刻聞いてる?おーい」


 空宮が耳元で俺を呼ぶ。


「聞こえてる」

「じゃあ反応してよ!」

「あぁ、それはすまん。少し聞き間違えしてたもんだから」

「聞き間違い?」


 空宮は何を聞き間違えたのだろうかと、不思議そうにしている。


「何を聞き間違えたの?」

「ん?お前がこの部活に入るって言ったように聞こえたんだよ」


 自分が聞こえたと思った事を伝えた。すると空宮は驚いた顔をする。


「私、この部活に入るって言ったよ!?」

「まさかー」

「ほ・ん・と・う!」


(おいおい、マジか。ついさっきと、逆パターンじゃねぇか)


 空宮は頬を膨らませてる。昔っからの空宮の癖だよ。小さい時から、俺ともう1人の幼馴染が聞き間違いをしたら、「もー!ちがうっていってるでしょ!」と今のように頬を膨らませながら言ってた。


(おっと、今大切なのはそんな事じゃない。えーと、空宮がこの部活に入る?どういう事?)


「何でこの部活に入ろうと思ったんだ?」


 俺は空宮に聞いてみる。


「ん〜、私部活に今は入ってないし刻もいるから入ってもいいかなって」


(理由が雑だな。まぁ、でも部員が増える分にはいいと思うんだけど)


「華山どうする?」


 俺は華山の方を向き、聞いてみる。

 部長は華山だからな、俺の独断では決めれない。


「えーと、その、あの……」


 絶賛コミュ障発動中ですね。

 これはいつも通りだけど、このままだと会話にならないから華山に喋ってもらわないといかないのだ。


「華山、空宮こんな奴だけどこいつが入れば部員3人になって、ちゃんとした活動ができるぞ?」

「あれ、何か私こんな奴扱いされてる!?」


 ちゃんとした活動という単語に、華山は反応したのだろう。物凄く悩んでいる。

 1分ぐらい悩んだのだろうか。華山はカーテンからゆっくりと出てきて、部室の奥から入部届を持ってきた。

 華山のこの行動がどうするのか全てを物語っている。

 俺は華山から入部届を受け取り、カバンからペンを取り出して空宮に渡す。


「ほら、空宮ここに名前書け。書いてそれを顧問?か他の誰かに提出して認められたら、入部完了だ」

「私ここに入っていいの?」

「何言ってんだ?お前が初めに入るって言ったんじゃないか」


 そう言うと、空宮に早く書くように促す。


「書けたー!」

「よし、じゃあ提出してこい」

「うん!行ってくる〜」


 空宮は走り去っていった。

 空宮って運動できるのに何で文化部に入ったんだろうな。まぁ、俺に人の事どうこういう資格なんてないんだけど。


「すまんな華山。急にあんな騒がしいやつ連れてきて」


 俺は華山に謝った。

 事実何も伝えてなかったわけだし、なんならあいつが勝手に着いてきたわけだし。


「別に、大丈夫……ただ少し驚いただけです」

「そうか」

「部員が増えて私も嬉しいです。空宮さんとは時間をかけて仲良くなります。だから大丈夫です」

「そうしてくれると助かる」


 PhotoClubは1人の部活から3人の部活になった。

 これから騒がしい高校生活になりそうだ。

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