第5話「友情」
久遠が部活の面々に合宿の欠席を伝えてから数日後。雨が降っているため彼女は学校を休んでいる。いつも通りの練習をこなし、19時を回る頃に練習は終わった。
「雨森、今日時間ある?」
「あるけど」
「良かった、ご飯食べに行こうよ」
突然の北庄司からの誘い。彼女持ちとして2人で何処かに行くのはどうかと思ったが、それを考えるということ自体に下心を感じてしまい、考えないことにした。
「良いよ」
「良かった、久遠のことでちょっと話したいこともあったからさ」
北庄司は久遠と仲が良く、お互いが友達として見ていることも分かっている。きっと大丈夫だろう。
向かったのはイタリアンの店。パスタを頼むと値段はそのままに、量を1倍、1.5倍、2倍から選ぶことができる面白い店だった。
「何にする?」
「うん……ミートパスタ、量は2倍にしようかな」
「男の子って感じ。でも、量選べて少ないと損した気分になるからなぁ。私は海老とほうれん草のクリームパスタの2倍頼もうかな」
「食べれるのか?」
「食べれなかったら雨森にあげるよ、食べれるでしょ?」
「まぁ……」
「じゃあ大丈夫、すいませーーん!」
押しが強いのは久遠と少し似ているが、彼女に比べると北庄司はサバサバしている。性格1つ取っても、完全に同じということはないのだろう。
「初めてだね、雨森と2人でご飯食べるの」
「まぁ、そうだな」
凛太郎と3人や、久遠も入れて4人で食べることはよくあるが、北庄司と2人きりなのはこれが初めてだ。
「久遠とは2人でご飯とかよく行くの?」
「んーー、付き合う前は結構行ってたけどな。付き合ってからはそんなに」
「付き合う前はよく行ってたよね、久遠が凄い勢いで押してたの覚えてるよ」
「凄いか、確かにな。俺からだったらあんなには誘えない」
「お似合いだねぇ、良いな」
水を含む北庄司の目はどこか上の空に見えたが、それも一瞬だった。
「久遠さ、大丈夫?」
「大丈夫ではある。ただ体調は崩し気味だけどな」
「どこか悪いのかな。持病持ってるとか聞いたことある?」
「いや、そういうわけじゃないらしい」
「じゃあ、どういうこと? こんなに体調崩すことなんてある?」
「元々身体が弱いんだろうな」
「あんなに運動とか出来るのに?」
「それとこれは別だろ」
「……そっか」
雨恐怖症ということを久遠は俺以外に知られたくないと言っていたため、追及が終わったことに安堵する。
「ごめん、熱くなった。でも私さ、心配なんだ。この前久遠が久しぶりに来た時、痩せてて、顔色も悪くなってて、何か間違えたら死んじゃいそうで」
何か間違えたら死んでしまいそう。それはその通りだ。雨の日が続いて何か間違いがあったら、と考えるだけで恐ろしい。
「……北庄司」
「ん?」
「俺も合宿行かないって言ったら、どう思う?」
「……やる気あんのかって思う」
「そうだよな……」
「でも、久遠の側にいるためって言うなら、悪くない」
俺としてもしばらく会っていない久遠に久しぶりに会って、ああなっていたことに少なからず衝撃を受けていた。もしかしたら、北庄司にこうして背中を押してもらいたかったと思っていたのかもしれない。
「ありがとう。今度久遠に話してみる」
「勝手にして。レギュラー無くなっても知らないけど」
「せいぜい頑張って練習するさ」
「それが良いよ」
そうこうしている内にミートパスタとクリームパスタがテーブルに届けられる。たわいもない話をしながら、楽しい時間は過ぎ去っていった。
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