第6話 エイスケの策略

 一家の大黒柱である英介は、家にいるとボヤッとダラっとしているところしか見ない。

 尻を掻きながら寝そべり、テレビに話しかけている。

 家犬のクロには、ちょっかいを出しては逃げられ、彩や一郎は既に父親離れをして遊んではくれない。妻の美智子はのんびりと自分のことをするので精一杯だ。

 よって、天敵であるインコたちにとばっちりが来る時がある。


 「レモン、アオ、今日も暇か?」

 猫撫で声で寄ってくるが、レモンもアオも返事をしない。

 2羽とてこれが、面倒臭いことの始まりだということくらいは分かっている。


 《げっ、レモン、エイスケ来たよ。今日も誰からも構ってもらえないんだよ》

 《仕方ないよな。あいつ鬱陶しいんだもん。気をつけろよ、何してくるか分からないからな》

 

 「こら、家主には返事をするもんだぞ。彩にはあんなに愛想がいいのに、何で俺だとそっぽを向くんだ?」


 《エイスケだからだよ》

 《バカなの》


 英介が話しかけるも、尻を向けたままの状態で目を合わせない。


 「いいのかお前ら、出してやろうと思ったのに、ちなみに、ここにトウモロコシがあるんだがなぁ。食べたいか?出たいか?ん、どうすんだ?」


 ケージの入口をちょっとだけ、開けたり閉めたりするのだ。

 尻を向けていた体制のレモンとアオにとっては、気になって仕方ない。


 《レモン、トウモロコシ、食べたいよ》

 《ばか、エイスケの思う壺だぞ。あいつ、今日は暇なんだ。何してくるかわかんないぞ》

 《えーん、エイスケのアホー。トウモロコシだけ置いていけよ》

 《とにかく、あいつを見ちゃダメだ。我慢しろよ、アオ》


 止まり木の上を左右に高速移動しながらも、英介の方を振り向かないレモンとアオ。

 2羽とも死に物狂いで我慢している。


 「なんだ、レモン、アオ、つれないな。はぁ、父ちゃんは家族にも相手にされないし、ペットにも相手にされない。さみしいなぁ、うっ、うっ、泣いちゃおうかなぁ。」


 《えーん、レモン、もう限界だよ。エイスケ、可哀想になってきた。もう振り返ってもいい?》

 《仕方ない、俺たちだけでも今日は構ってやるか。じゃぁ、いくぞ、いっせいのせい!》

 

 2羽のインコが振り向いた。

 目の前には、英介の顔。

 そして、開けてあるケージの入口。

 そして、そして、


 『エイスケー、アホー!』


 レモンの叫び。

 ギョッとした英介の口からこぼれ落ちたトウモロコシ。

 2羽が瞬時にして飛び立つ。

 そして、狙うは、


 「レモン、やめろー!」


 頭の上を突っつくレモン。

 

 『エイスケ、キライ、エイスケ、アホ』


 レモンの怒りは最高潮である。

 ちょっとでも英介を可哀想と思った自分に腹が立つ。

 そしてアオは、英介よりトウモロコシに飛びついた。

 はずが、少しの差で黒いモノが目の前を横切る。

 通り過ぎた後には、トウモロコシがない。


 《あー、クロ、それ僕のだよ。返してよ!えーん、食べないでよ》


 アオが鳴くのもお構いなしに、トウモロコシは無くなっていく。

 口の周りをペロリと舐めると、ゆったりと去っていくクロ。


 《えーん、クロのバカァ、エイスケのどアホ》


 英介を散々突っついたレモンは、


 《アオ、今日もアヤに奉仕しよう。俺たちを分かってくれるのは、アヤだけだ》

 《分かった、アヤ、まだ帰って来ないかなぁ》


 カーテンレールの上で、毛繕いをしながら会話をしているレモンとアオ。

 それを見ながら頭をさすっている英介。

 トウモロコシを食べて満足したのか、クロはソファの上でお休み状態。


 今日もまったりしている井上家の日常であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る