第3話 アヤの友達

 ある日の日曜日。

 リビングでウトウトしていたレモンとアオ。


 「ただいまぁー。」

 元気の良い声が玄関から聞こえた。

 彩が帰って来たのだ。

 ソワソワするインコ達。


 《アヤだ。これで出してもらえるぜ。エイスケは俺たちが噛むから嫌がってなかなか出さないし、ミチコはのんびりしてるから、俺たちの事を忘れてるんだ》

 《うーん、出してもらえるなら、伸びしとこ。羽根もキレイにしてと、準備運動もしとく?》

 《そうだな、じゃぁ、右から行くぞ》

 《分かった》

 ユニゾンのように、止まり木を左右に高速移動する。

 インコにとっては、ケージから出たいアピールと、ちょっとした準備動作なのだ。


 「レモン、アオ、ただいまぁ!おぉ、高速移動してるね。出たいんだねぇ。ちょうど良かった、友達を連れてきたよ。」

 彩のその言葉に、2羽のインコがぶつかった。

 危うく止まり木から落ちそうになる、アオ。


 《レモン、急に止まらないでよ。あっぶな》

 文句を言うも、アオにも分かっている。

 これは、緊急事態だ。

 《おい、何人、来たんだ?マジか?今日はまったり出て、アヤと遊ぼうと思ってたのに。あぁ、悪夢だぜ》

 《えー、どうする?僕、嫌だよ。愛想振りまいたり、掴まれたり、触られたり、写真だって撮られる度にポーズしないといけないじゃん》

 《何で前もって言ってくれないんだ。そうしたら、元気のないふりをしたのに。俺だって、ずっと喋らないといけないんだぞ》


 レモンとアオがゴニョゴニョ文句を言っている間に、

 「キャー、可愛い、なにこれキレイな色。ねえねえ、彩、出してもいい?」

 「触りたいよぉ。ねぇねぇ、インコと遊びたいけどいい?」

 「写真撮りたい!ねぇ、喋れるの?可愛いー!」

 女子独特の甘ったるく甲高い声で、矢継ぎ早に言われる。

 

 《おいおい、3人もいるぜ。それに、どいつもテンションたかっ!げっ、やばっ、逃げよ》

 《ダメだよ、アヤの友達なんだから、最低限のお愛想はしないと》

 《こういう時は、イチローの友達の方がいいな。愛想ゼロでも何とかなる。お前はいいよな、喋らないんだから》

 《そのかわり、手乗りインコの役目は僕がしてるでしょう。あれだって、ジロジロ見られるし、体触られるし、甘噛みしないといけないし、大変なんだから》


 ケージの中で喋っていると、とうとう扉を開けられた。

 目の前には、キラキラした目をする女子中学生が3人と、お願いポーズをするアヤ。


 《はぁ、となかく疲れない程度にあしらうぞ。アオ、俺がおさげとポッチャリに行くから、お前は眼鏡に行け。後は、適当に回して、疲れたらアヤの肩に行くんだぞ》

 《うん、レモンも頑張ってね。とにかく頑張ろう》

 《あぁ、じゃぁ行くぞ!》

 

 『アヤ、オカエリ、アヤ、スキィ』


 「キャー、可愛い、喋った!!スキだって、すごーい!いやぁ、可愛いー!おもちゃみたい!」

 物凄い奇声の中、2羽のインコは奮闘する。

 ただがむしゃらに人から人に飛び移り、ほっぺにチュッ、お手てにチュッ、尻尾フリフリ、下から見上げる目線の可愛いポーズ。

 そして、ケージに戻された時には放心状態になっていた。

 目はうつろ、口はハアハア、体は熱く羽根を少し浮かせる始末。


 「おっ、2羽とも今日は大人しいじゃないか。彩の友達と遊んでもらえて良かったな。お前ら、暇だもんなぁ。ほれほれ、父さんが撫でてやろうか。」

 女子中学生に遠慮して、部屋で大人しく待っていた英介は、この瀕死の状態のインコを労うどころか焚き付けたのである。

 

 そして、どうなったかは言うまでもない。

 迂闊にケージに手を入れてきた英介の指には、くっきりと二つの痕が残っていた。

 今日も井上家は平和だねぇ。

 

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