第2話 ときどき黒
平日の朝。
インコ達の会話が聞こえる。
今日も朝から平和だ。
《あー、こっから出たいな。アオ、お前、可愛く鳴けよ》
《えー、やだよ。人間に愛想を振りまいたら面倒じゃん。かまってくるし、僕は1人でゆっくり遊びたいんだ》
《くそっ、じゃ、俺がやってみるか》
『キュルル、キュルル、オハヨ、オハヨ』
朝はめちゃくちゃ忙しい。
私は中学2年生で、ギリギリまで寝ているので朝はとてつもなくハードだ。
とくに髪型が酷いことになっている時は、手汗がジワリ、脇汗もジワリとにじむ。
兄の一郎は、高校2年生。
出る15分前に起きて、今はおにぎりを片手に、既に出ようとしている。
男はいい、寝癖だろうがご飯粒がついていようが、気にせず出かけられる。
女子はそうはいかない。
髪の毛が一本たりとも重力に逆らっているなど、許されないのだ。
『アヤ、オハヨ!オハヨ!』
先ほどからレモンがお喋りしてくれている。
本当は近寄って愛でたいところだが、今日の私の髪の毛は、なかなか言うことをきいてくれない。
「レモン、アオ、おはよう!」
挨拶をするので精一杯だ。
《チッ、だめだ。あいつら、日頃の俺達がどれだけ癒してやってるか分かってないな》
可愛く喋っているのに、アヤもイチローもこちらに来ない。
《何だか、朝は忙しそうだね。ねぇ、エイスケかミチコに言ってみれば?》
『エイスケ、ミチコ、オハヨ!』
パンにべっとりバターとジャムを塗っていた父さんこと英介が、インコ達の方をチラリと見る。
「母さん、インコがおはようだってさ。あいつら呑気でいいな。俺も会社休みたいなぁ。鳥みたいに、ボーと過ごしたいなぁ。ああ、今日、休みてぇ。」
『エイスケ、ダメ、エイスケ、アホ』
ぼけっとパンを口に放り込んでいた英介が、ギョロリとこちらを見た。
そして、ツカツカとこちらにやってくると、手に持っていた苺を俺達に見せる。
「ほれ、欲しいか。ふふん、ならエイスケ、アホじゃなくて、スキって言ってみな。ほれほれ。」
人間とはなんと面倒で、意地悪なのか。
『・・・エイスケ、スキィー、、』
声が裏返り、だんだん小さくなっていく。
それでも英介は満足したのか、エサ置き場の小さな扉を開けると、苺を入れようとした。
その時、
「バクッ、モシャモシャ。」
咀嚼音が聞こえた。
「ゴクッ!」
飲み込んだ音までも!!!
《おらっ、てめえ、何しやがる!このクソ犬、てめえの毛なんかこのクチバシでむしり取ってやるー!》
《僕は、お前の目にウンコしてやるんだから。返せよ苺。あーん、食べたいよ》
《エイスケ、お前がちゃんと入れないから取られたんだろうが、しゃんとしろ!》
《エイスケのバカァ》
インコ2羽がギャーギャー言うも、苺は家で飼っている老犬のクロが食べてしまった。
トイプードルで黒い毛のクロは、インコ達とは良好の仲だと思っていたが、今日はどうやら苺が食べたかったらしい。
「なんだクロ、苺、食べたいのか?こっち来い。」
そしてなぜか、苺を既に食べたクロに、また苺をあげている。
《エイスケ、許すまじ。お前、俺たちのはどうしたんだ。こっちに来い、噛んでやる》
《何だよ、なんで、僕たちのは?苺は?なんで何個もあげてるの?バカなの?》
レモンとアオはひたすらギャーギャー言っている。
そして母さんの美智子が、
「あら、苺なくなっちゃたわ。レモン、アオ、レタスでいい?」
それを聞いたレモンとアオ。
どうやら、思案しているのかピタリと黙ってしまった。
《まぁ、許してやるか》
《仕方ないよね》
レタス好きな2羽。
ほんと今日も平和だね。
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