第14話 初めての魔法
『すまんの…』
学校からの帰り道。突然、狐月が謝ってきた。
「何が?」
『さっきの件じゃよ。妾の感情が漏れておった。主はそれに影響されとったんじゃ』
どうやら、竜司があそこまで怒ったのは、狐月の感情に影響されている部分が多かったらしい。そのことを狐月は気にしているらしい。
「気にするな、あの感じならどうせ俺が折れるまで続いただろうからな」
『じゃが…』
ようやく見つけた契約者に、いきなり契約解除をしろなどと言われれば怒るのも無理はないだろう。それゆえに、気にするなと伝えるが、狐月自身は納得できないらしい。
「その影響ってのはずっと続くのか?」
『いや、契約が完全に定着する一週間ほどだけじゃ』
「なら、なおさら気にすることじゃない。それよりも今後の事ほ考えるべきだろ」
『むぐぅ。し、しかしのお』
「俺が言いて言ってんだからいいんだよ」
めんどくさ。口から出かけそうになるのを何とかこらえながら言う。九尾という割には随分とネガティブである。
『…わかったのじゃ』
しぶしぶといった感じではあるが、ようやく納得してくれたので、次の話題に移る。契約してから気になっていたことがあるのだ。
「狐月、お前の能力は聞いたけど、雪花はどんな能力なんだ?
『すまぬ。わからんのじゃ』
「そうかなら仕方ない」
どうやら、話し相手にはなってもらっていたが、能力については聞いていなかったらしく、月に関する存在だということ以外は分からないらしい。
『………』
ふと、声が聞こえた気がした。周りを見ても誰もいない。
「狐月なんかいったか?」
『?妾はなにもいっとらんぞ。どうかしたか?』
「いや、声が聞こえたような…。気のせいかね」
『そうじゃの』
そうして竜司は家に帰っていった。
家に着くと鈴音が夕食の支度をして待っていた。今日はカレーのようだ。
「あ、お兄ちゃんお帰り。遅かったね」
「ああ、契約の件でな」
「てことは、契約できたの!おめでとうお兄ちゃん!」
「ああ、ありがとう鈴音」
竜司が契約できたことを知ると、鈴音はわがことのように喜んだ。
夕食を食べながら鈴音は契約がどんなものだったのか質問してきた。それに一つ一つ答えながら、今後の事を考えていた。期間は一週間。それでどれだけのことができるだろうか。最低でも今日のうちに何ができるかの把握だけでもしておかなければならないだろう。
「なあ、鈴音」
「何?お兄ちゃん」
「明日から一週間くらい学校休むわ」
「え…。なんで、どうして?」
竜司の言葉に急に不安そうな声で理由を聞いてくる。一体どうしたというのか。
「やらなきゃならんことができた」
「やらなきゃって、お父さんも、お母さんもういないんだよ?また、あんなことやっても意味ないよ!」
鈴音の訴えに竜司は、ああと納得した。やはり、鈴音も知っていたのだろう。前の死ぬ前の竜司の行動とその理由を。
(だとすれば、俺の前にいるときは相当無理してたのかもな)
転生前の記憶が全くないとはいえ、鈴音の行動には違和感を感じなかった。だが、もしかしたら相当気を使って、そうなるようにしていたのかもしれない。
「落ち着け…。一週間後に模擬戦をすることになった。その準備のためだ」
一旦、鈴音を落ち着かせてから、その理由を話す。
「模擬戦って。お兄ちゃん契約して一日もたってないじゃない」
驚くのも当然だろう。普通はありないのだから。それでも、狐月たちと契約を続けるためにはやらなければならない。
「そうだな、でも証明しなければならない。俺が戦えるって。んで、あのむかつくおっさんの鼻っ柱をへし折ってやる」
「どういうこと?」
「明日学校行けばわかるだろ。俺は準備があるからもう上がるぞ、時間が惜しい」
「あ、ちょ、お兄ちゃん⁉」
戸惑う鈴音に少し申し訳ないと思いながらも、話を切り上げ自分の部屋に向かう。ここからは時間との勝負。どれだけ準備できるかで勝算が変わる。
「とにもかくにもまずは魔力操作だ。それができないことには始まらん。狐月、やり方は分かるか?」
操作の習得だけならば、学校でやればよい。だが、教師が軍と一緒にいた以上、安易に味方であるとは考えたくない。たとえ協力してもらえたとして、自分がどれだけのことができるか相手に漏れる可能性がある。そうである以上、竜司に学校で教わるという選択肢はなかった。
『むろんじゃ。何ならすぐにできるようになるぞ』
「どういうことだ?」
『妾が動かし方のイメージを伝える。主はそれに従ってやればよい」
どうやら動かし方を、頭に直接知識として流し込めるらしい。反動で頭が少し痛むことだが、自力で一から習得するよりははるかに効率がいい。
ならば、とためらうことなくその方法を了承した。
『承った。では主よ、ゆくぞ。それっ』
「ぐっ…」
ズキリと頭にさすような痛みが襲う。同時に魔力に対する知識が流れ込んでくる。頭の中に水が流れ込んでくるような感覚で気持ちが悪い。しばらくしてその感覚が止まった。どうやら終わったようだ。
「…おお」
『ふふん。どうじゃ』
さっきまで動かし方すらわからなかったのに、自分の思い通りに魔力が動く。狐月が自慢げになるにもわかる。だが、浮かれているわけにもいかない。これでようやくスタートラインに立っただけだ。
「あとは魔法の発動だが…」
『魔法はイメージじゃ。自分のイメージがはっきりすればするほど魔法もしっかりと発動する』
「イメージね、とりあえず水を出せるようにしてみるか?」
狐月の言われた通りに魔力を手に集め水のイメージをする。川、海、雨、水道。そういった水を手に掬うイメージ。
「おお…」
器のようにした掌から湧き出すように水が出てきた。なみなみと揺れる水に感動する。竜司はいま、確かに魔法を使ったのだ。消えるように念じればスッと水は消えてしまった。
『クックック。うれしそうじゃの。じゃがここではそれ以上の練習は難しそうじゃの』
「何か、案でもあるのか?」
『うむ、霊界に行くのじゃ』
霊界。確かにそこなら人と出会う可能性も少ないだろう。だが、その代わり人ではなく魔物が徘徊している。それに、行き方もわからない。そんな不安と疑問に狐月はこう答えた。
『このあたりならば、魔物も弱い主ならば問題ないじゃろう。行き方は妾に魔力をこめて、その辺の空間で振ってくれれば入り口を開けるのじゃ』
契約して一日目。戦い方など全く知らない。そんな状態で行くなど、分の悪い賭けでしかない。だからと言ってほかに手があるわけでもない。
「背に腹はかえられない…か。わかったやろう」
そう決断すると、外に出る。魔力を動かし、刀に流し込んみ、狐月がもう十分だと言ったところで流すのをやめ、鞘から狐月を抜いた。
刀身はほかの部分とは違って、青白くほんのりと光っていた。竜司は狐月を上段に構えると、何もない空間を斬るイメージで振り下ろした。
『うむ、開いたのじゃ』
刀を振った場所に楕円の形をした黒い穴が開いていた。向こう側は見えない。
「これが、入り口」
『うむ』
狐月を鞘に収め、深呼吸。意を決してその穴に飛び込んだ。
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