第13話 交換のすすめ

 トラックの外に出て待つこと数分。弓を持ってレーヴェが出てきた。どうやら、レーヴェも契約できたらしい。


「レーヴェもできたんだな」

「ええ!風の精霊が宿った弓よ!これなら遠距離でも戦えるわ」


 相当うれしいのだろう。パタパタと耳を動かしながらレーヴェが答えた。レーヴェの弓は風の精霊らしい、緑と銀の意匠が施された美しい弓だった。


「竜司君はどんな武器かしら」

「俺はこの刀と、短剣だ」

「まあ、ふたつも契約できたのね」


 少しだけ驚いた様子のレーヴェ。もっと驚かれると思っていた竜司はレーヴェの反応を意外に思った。


「あまり珍しくないのか?」

「珍しいといえば珍しいけど、それなりに数がいるのも確かね。大体、契約者500人に一人くらいかしら」


 この世界ほ、魔物の影響で人口は約30億人程度、単純計算で行けば契約者が3億人なので、二重契約者は、大体60万人ほどか。年齢などもあるのでこれより少ない数になるだろうがそれでもかなりの人数がいるようだ。

 レーヴェと話しているうちに集合場所についた。大半の者たちは契約できなかったのだろう意気消沈している。そんな中、嬉しそうにしている者が二人ほど。担任の言った通り確かに十人に一人の割合のようだ。


「契約できたものは、多目的室に移動するように。ほかの生徒はここで解散。支度が終わり次第下校するように」

「だってさ、行こうか」

「ええ、そうね」


 そしてやってきた多目的室。中には40人、約一クラス分くらいの人数が集まっていた。まだ、終わってないクラスもあるので、もう少し増えることになるだろう。

 しばらくして、吉岡とともに数人の男たちが教室に入ってきた。


「おい、あれって国軍の人じゃ…」

「協会の支部長もいるぞ」


 どうやら、軍と協会の人間がやってきたようで、かなりざわめいている。ちなみに協会というのは、魔物やテロリストに対して国軍だけでは処理しきれないため。魔物、特に鬼門に対して専門的に対処する、探索者と呼ばれるものたちを管理する組織である。そんな者たちがいったい何のために来たのだろうか。


「まずは紹介する。国軍の水沢さんと、この地区の協会支部長、一宮さんだ。今回はこの二人の立会いの下どんな魔装と契約したかの確認作業を行うだけだから、そんなに緊張しなくていいぞ」


 吉岡が言うと、水沢と一宮が一歩前に出る。


「紹介に預かった水沢だ。君たちは確実に将来有望なものたちだ。今日はよろしく頼む」

「俺からもよろしく頼む」


 二人が簡単な挨拶をすると、確認作業が始まった。一組のほうから順番に確認していく。本当に確認だけなのかすぐに列はすぐに進んでいった。


「レーヴェ・イルシュタインは弓か。支援型といったところだな。次」


 竜司の番がきた。前に用意されているテーブルに刀と短剣を置く。


「…真島、お前二重契約なのか。だが、なぜ魔法型の武器なんだ?」

「魔法が使いたいからです」

「……そうか。あとでもう少し話したいから待っててくれ」

「はあ」


 やがて、全員の確認が終わり教室内にいる生徒は竜司だけとなった。


「さて、真島君といったかな?」


 まず、水沢が話だした。竜司がうなずくのを見ると、言葉を続ける。


「きみ、契約する魔装を変えてみないか」


 とそんなことを言い出した。


「は?」


 言われたことの意味が理解できず、間の抜けた声を出す竜司。そんな様に吉岡が説明を始めた。


「二重契約できる才能はそれなりに貴重なんだ。強化系の魔装なら倍率が一気に上がるからな。英雄なんて呼ばれる人たちは、ほとんどが二重契約をしている。そんな才能を魔法が使いたいからって理由でつぶすわけにはいかない」

「それに、本来なら中三に行われる全国戦技大会で、ベストスリーに入らなければ受けられない特別待遇も、強化系なら簡単に受けられる。例えば…第一魔装高校の特待入学とかね。もちろん家族の住む場所も提供される」


 そこに水沢が補足するように付け加える。

 全国戦技大会とは国軍や教会の者たちや、それを育成する高校のスカウトの場として設けられたものである。優秀な戦士は常に戦場でで求められているのだ。そこで三位以内に入らなければ手に入らない待遇を強化系の二重契約なら無条件で受けられるというのは確かに魅力的な条件なのだろう。しかし、


「いやです」


 即答だった。考えるそぶりもなく答えた竜司に三人は唖然としていた。当然といえば当然である。竜司は国軍や協会で英雄になりたいわけではない。ただ、魔法が使いたいのだ。その確実な方法がこれだっただけ。


「しかしだ、魔法系統の魔装では到底大会では勝てないだろうし、優遇措置も受けられんぞ」

「かまいません。協会なら中卒でも入れたはずです。もしもの時はそうすればいいので」

「しかしだな―――」

「何を言われようとこの考えを変えるつもりはありません」


 食い下がる三人に対し竜司は言い切った。別に勝算があるわけではない。子供じみているかもしれないが、ただ自分の決断にこれ以上口出しされたくなかった。なにより自分と契約した武器の想いを知り、それを了承した以上簡単に投げ出したくなかったのだ。


「…そこまで言うなら分かった。だがこちらとしても簡単に引き下がるわけにもいかないんでな。なら、一週間後我々の用意した人員、国軍の一人と模擬戦をして、勝てたらこちらも身を引こう。君が負けたら契約の切り替えを行ってもらう」


 一宮がそう提案した。


「契約どころか、魔力の知覚ができたばかりの人に模擬戦で勝てですか?ずいぶんひどいですね」


 国軍のの一人ということは、実戦を経験している兵士ということ、それと戦って勝つなど、客観的に見て不可能である。実質これは命令と変わらない。


「これが、我々のできる最大限の譲歩だ。それに勝てばいいだろう?」


 勝ち誇ったような表情でそう言ってくる一宮。ここで竜司がおれるか、たとえ模擬戦をしても必ず勝てると思っているのだろう。全てが自分の想い通りになる。それが当たり前だとでも思っているような顔だ。

 それを見たとき、竜司の中で何かが切れたような気がした。同時にその雰囲気も一変した。


「…いいでしょう。わかりました。その代わり、負けたら俺に今後一切、口出しすんじゃねーぞ」


 そう低く告げた。竜司の顔は嗤っていた。見開いた目に、吊り上がった唇。そこから感じるのは狂気。先ほどまで余裕顔だった、一宮や水沢がうろたえ、怯えの表情さえ見せている。そんな彼らを尻目に竜司は静かに教室を出ていった。

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