第12話 魔装
運動場にトラックが何台も並んでいた。その荷台はすべてあけられており、中にたくさんの武器が並べられているのが見て取れる。その一つ一つが魔装と呼ばれるものなのだろう。
担任の説明曰く、魔装とは強力な魔物の魂を封じた武器であり、そのすべてに意思があるらしい。そのどれかと魂の波長が合うことを適合したといい。武器と人間、両者の合意があれば契約できるそうだ。基本的に適合すれば、魔装が拒否することはなく人間側が契約するかしないかを決めるらしい。
「魔装の適合率は、大体10人に1人くらいだ。契約できなくても問題はないから、緊張せずに行くといい。じゃあ、各自で回ってきなさい」
担任がそういうと、わっとクラスのほとんどが駆け出した。
「すごい勢いだな…」
「ええ、ほんとに」
どうやら、レーヴェは駆け出した者たちの中には入っていないようだった。
「いかなくてよかったのか?」
「行ったらケガしそうだもの」
トラックのほうを見れば、クラスメイト達が押し合いながら殺到していた。確かに一緒に駆け出していれば、けがをしたかもしれない。
「しっかし、偏ってんな」
「まあ、特大の武器は人気だもの。みんな憧れてるから」
確かに、ほとんどが巨大なハンマーや大剣が収められているところに集中している。
「ま、時間もあんまりないし。とりあえず、すいてるところから行ってみようぜ」
「そうね」
そういって、すいているトラック。比較的軽量の武器がおかれているところに向かって歩いて行った。
「おー。思ったよりいっぱいあるな」
「そうね。少し驚いたわ」
中には、短剣や直剣、曲剣、特殊なモノなら両刃剣やフレイル、よくわからない球のようなものなど多種多様な武具がおいてある。
「とりあえず俺は奥から見ようと思うんだけど、レーヴェはどうする」
「そうね…。じゃあ私は左から見ていくわ」
「そうか、じゃ後でな」
「ええ」
そう言っていったん分かれ、竜司は奥に向かった。
『これはこれは…。また珍妙な奴がきたのう』
声が聞こえた。周りにはだれもいない。レーヴェも遠くで武器を見ていてこちらに話しかけている様子はない。
『そう警戒するでない。ここは意志ある武具の眠る場所。気になる奴がおれば話しかけることもある』
「武器、なのか?」
『おう、そうじゃ。ここの一番奥に来るがよい』
声に従って奥に進むと、そこにあったのは一振りの刀だった。上から下まですべてが黒檀のごとき色である。
「真っ黒だな。珍妙ってのはどういうことだ」
『ほう、たいていの輩は武器に話しかけられれば驚くのじゃがな。ますます不思議な奴よの』
「まあ、魔法があって、魔物やら異界っぽいのがあるんだから、武器がしゃべってもおかしくないだろ」
『そういうもんかのお』
なんだか悲しそうな雰囲気である。盛大なリアクションでも期待していたのだろうか。
『まあ、よい。なぜ珍妙かだったの』
「おう」
『簡単じゃの。一つの体、一つの魂。だというのに器は二つ。これを珍妙と言わずに何というのか』
器が二つ。心当たりは大いにある。この肉体の本来の持ち主である。この世界の竜司の死。そこに今の竜司が入っているのだから。
『妾は変わったやつが好きじゃ。どうじゃ、おぬしなら契約してもよいぞ?』
「うーん、俺魔法使いたいんだよなぁ。契約したら使えないとかだったら困るんだよね」
『問題ない、今でこそ刀じゃが元は九尾の狐。自然に属するものを扱えよう』
「へー」
どうやら、魔法が使えなくなるという心配はなさそうである。それならばそこに関しては問題はないのだろう。だが、竜司はこの刀が何かを隠しているような気がしてならなかった。魔装がこんなに簡単に契約を持ち出すのだろうかと。
『な、なんじゃ』
「なんで、契約しようと思ったの?」
『さっき言ったであろう。お主が変わっておるからじゃ』
「ほんとに?」
『………いやなのじゃ』
「へ?」
唐突な拒絶の言葉に唖然とする。だが、それは竜司に対して言ったものではなかった。
『もう嫌なのじゃ!こんなかび臭いところに何十年もほったらかしにされるのは嫌なのじゃ‼何の変化もない!動けもしない!もう気が狂いそうなのじゃ‼頼むから契約しておくれ!妾は!外に出たい!』
己の現状に対する慟哭。魔法が廃れてかなりの時が経つ。あふれ出る思いの重さは生半可なものではない。
「それは、また…」
『頼む、頼むのじゃ。眠れもせず、動けもせず。ただ真っ暗な部屋で過ごしつづけるのはもう嫌じゃ…』
最後に出たのは懇願だった。いろいろ限界だったのだろう。何十年という月日を見向きもされず、同じ場所で過ごす。その苦痛は想像もできない。
「…魔法使えるんだよな」
『…う、うむ』
「わかった。なら、契約しよう」
『よ、よいのか!』
「ああ」
『なら、妾を手に取って名をつけておくれ。それで契約できる」
名前と言われて少し悩む。手に取った刀は全てが黒檀のような色だ。中身の魂は九尾の狐と言っていたか。
「…黒は夜っぽいし、狐だから。あー、狐月とか?安直だけど」
竜司がつぶやいた途端、刀が輝きだした。光が収まると、刀を持っていた右手の甲に狐を思わせるような紋様が浮かび上がっていた。曰くこれが契約の証らしい。
『これに契約完了じゃ。我が魂、我が力そのすべてを主にささげよう』
「ああ、これからよろしく」
そうして、トラックの外に向かおうとすると、狐月が待ったをかける。
『主よ。もう一人契約してくれんか…』
「もう一人って、できんの?」
『器が大きければの。主の場合は関係ないが。いったであろう器が二つあるとな』
「なるほどな。なら俺はいいけど。どれなんだ」
そうして狐月が示したのは、片隅で乱雑に転がされている青白い短剣だった。近づいても、触ってみても何の反応もない。
『こ奴は妾が来る前からおったやつでの。こ奴がおらなんだら妾もとうに狂っておったじゃろうて。今はもう話す気力もないほどに消耗しておるが…。連れていけるなら連れて行ってほしいのじゃ』
どうやら、狐月なりに恩返しをしたい。ということらしい。
「いいぞ。さっき同じ感じでいいか」
『うむ』
「そうか。じゃあ……お前は雪花で」
短剣もまた同じように輝きそれが収まれば左の甲に紋様がうかびあがった。これは、月と星だろうか。
「うし、じゃあお前もよろしくな雪花」
『…』
答えはなかった。だが、確かな意思があるのを感じた。
少し不安はあるが、確実に魔法が使えるようになるということと、二つの武器と契約するという予想外の収穫もあり、竜司は満足げな表情でトラックの外に出た。
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