第11話 待望
あれから一週間、ついに魔力実践の日がやってきた。時間は昼休み。授業は午後からなので、竜司は今日一日ずっとそわそわしながら過ごしていた。
「竜司君、珍しく今日はずっと起きてたわね。いつもなら一つは必ず寝てしまうのに」
レーヴェが言った。
「ああ、今日は魔力実践だからな」
「ふふ。確かにあれだけ動けるなら身体強化が使えるようになったらすごいことになりそうだものね」
ここ最近の護身の授業を思い出しているのか、レーヴェは笑いながら答える。だが、竜司は身体強化にはあまり興味がなかった。
「んー、それよりも魔法のがつかいたいかな」
「なんで?」
「ん?そりゃあ、そっちの方が面白そうだから」
魔法が使いたい。そういう竜司にレーヴェが理由を聞けば、ただ面白そうだからと返され唖然とした表情を浮かべてた。
「面白そうって、魔法はあまり役に立たないのよ?」
「そうか?」
「ええ、生活ではドワーフの開発した魔道機器のほうが汎用性があるし、戦闘じゃあほとんど意味をなさないし…。使いどころがないのよ…」
言いながら少し落ち込むレーヴェ。おそらく体力が低く魔法に高い適性を持つ、というエルフの特性の事を考えているのだろう。
「なあ、ずっと気になってたんだけど、生活に関してはともかく、戦闘で役に立たないってどういうことなんだ?」
米村の言っていた、魔法は役立たずという言葉の意味。機会がなくて全く聞けていなかったが、ちょうどいいと思って聞いてみた。
「簡単よ。有効な魔法を使う前に身体強化で近づかれるからよ」
「じゃあ、それより離れて使えばいいんじゃ」
「大昔の魔女って言われた人たちは、遠くに魔法を飛ばせたけど、魔女狩りがはやったときに全員殺されたせいで、方法がなくなったわ。今はもう30メートル超えたらほとんど意味はないの。その距離なら身体強化した戦士やちょっと強い魔物ならすぐに接近できるの」
「みじかくね」
さらに聞けば、威力を考えなければ何とか接近前に使うことができるが、その程度の魔法なら当たっても何の効果も発揮せずに霧散してしまうらしい。そういうわけで、魔法は使えるようになっても、使いどころがないということで役立たずと言われているらしい。
「ただ、唯一回復系だけは重宝されてるわ。すごい人ならちぎれた腕も直せるもの」
「そういうもんか…」
「ええ」
話を聞く限りでは、確かに魔法を習得する意味はあまりないのだろう。それでも竜司は魔法が使いたかった。前世ではなかった魔法。夢にまで見た魔法が使える可能性が目の前にあるというのに、使わないという選択肢はなかった。
(魔女狩りか…。距離のもよるだろけど、遠くから撃てるってだけならあんまり殺す意味はないような気がするんだけどなあ)
「魔女か…。生きてたら会ってみたかったな」
「…そう」
今はいないとされる魔女に思いをはぜる。魔女に関して調べれば魔法の射程を伸ばせるかもしれない。時間を見つけて調べてみようと竜司は思った。
「ま、どっちにしろ魔力を使えるようになってからだな。もうすぐ昼休みも終わるし用意しようぜ」
「ええ、そうね」
そうして二人は立ち上がって教室を出た。次は、いよいよ魔力実践である。
場所は変わって、室内運動場。いわゆる体育館のような場所に来ていた。中はかなり広く一学年15クラス全員が集められているにもかかわらずまだ余裕がある。すでに全員が整列していて、あとは授業の開始を待つだけである。
「全員いるからちょっと早めに始めるか」
吉岡が前に出ながら言った。魔力実践もどうやら吉岡が担当するらしい。
「あー、早めに始めるって言ったが。その前に、本当は来週の予定だったんだが、思ったより早く順番が来てな。契約の適正調査を先にすることになった」
「契約ってことは…魔装ですか?」
「ああ」
吉岡の答えに歓声が上がる。竜司は魔装がどんなものか知らないため、よくわからなかったが、周りの反応を見て一大イベントだということは分かった。
「静かに!それに伴って、国軍と協会の方が武器庫を運んできてくださっている。一組から順番に入って確認してくれ。待ってるクラスは魔力の学習を行う。いいな」
『はい』
一組からなので、竜司はのクラスは12番目に呼ばれることになる。1クラス、約十分ほどらしいので、かなりの時間待つことになるようだ。
一組が担任に先導されていくのを確認すると、吉岡は魔力について説明を始めた。
「魔力実践といっても、まずは魔力を知覚するところから始めなければ話にならん。だから、いまから配るものを使ってまずは自分の中にある魔力を探してみろ。まあ、見つけるだけなら言うほど難しくないから、気楽にやるといい」
そういって配られたのは、赤いボールのようなものだ。でっぱりが一つだけついていて、押し込めるようになっている。曰く、このボタンを押すと魔力が体に流されるらしく、その感覚と同じものを自分の中から探すらしい。
「もらったら各自始めてくれ。近くができたら前に来い。操作の訓練をする」
竜司は配られたボールをひとしきり眺めた後、そのボールについているボタンを押した。
「ッ!」
バチリと静電気のような衝撃に思わず手を放す。
(今のが、魔力?)
もう一度、今度はしっかりと覚悟してボタンを押す。
「…っ」
再び、バチリという静電気のような感覚が手に走る。だが、今度は離さずボタンを押し続けた。すると、次第に電機の流れるような感覚は収まり、熱いような冷たいような不思議な感覚に変わっていった。意識してその感覚を追えば、掌から肩にかけて流れ、そこで止まっている。
(これが、魔力…。これと同じものを体から探す)
体の内側に意識を向け、集中する。魔力の流れを感じる腕から順番に、じっくりと探っていった。
どれくらい時間がたったのだろうか。10分か、20分か、はたまたそれ以上か。自分の中には魔力なんてないんじゃないか。そう焦りを感じ始めたとき、その時はyって来た。
「っ!みつけた!」
熱いような、冷たいような感覚が、心臓の裏側で燃え上がるようにうごめいている。一度感じてしまえば、どうして今まで気づかなかったのかと思えるほどの存在感だ。
(これが、魔力。俺の魔力か…)
体の内で燃え上がる魔力の感覚にしばし陶然としていた。魔法を使うための第一歩をついに踏み出したのだから。
目を開けると、竜司の周りにはだれもおらず、ほぼ全員が体育館の前の部分に移動しており、魔力操作の段階に入っていた。どうやら、竜司はかなり遅い部類だったらしい。
「あなたも、知覚できたのね」
「ああ、かなり遅い方だったみたいだけどな」
前のエリアに行くと、レーヴェが話しかけてきた。エルフなだけあって、魔力の知覚はすぐにできたらしい。操作のほうも順調のようだ。
「いいじゃない、できたんだから」
「それもそうだ。あとは操作だな」
そう言って今度は操作の訓練をしようとしたところで、
「次、12組!整列してください」
と放送がかかった。どうやら順番が来たようだ。
竜司たちは指示通り整列すると、武器庫に向かっていった。
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