第10話 護身 対米村
「お、もどったな」
竜司が戻ると吉岡は、一度全員を整列させた。
「あー、何人か休憩してるからな。俺が見た中で良かったやつ同士で組んでもらってやってもらおうか。ほかの生徒はしっかり見とけ。見るのも勉強だ。というわけで、米村、久しぶりで悪いが真島、前に来てくれ」
竜司の名前が出たことで、クラスにどよめいた。あちこちでひそひそとしゃべる声が聞こえる。
「静かに!黙ってみてろ。見ればわかる」
竜司も驚いたが、呼ばれた以上は仕方がない前に出て米村と向かい合う。組手の用意が整うと周りも静かになった。
「それじゃあ、まずは米村が攻めだ。時間は3分ずつ。お互い構えて…はじめ!」
合図と同時に米村が飛び出した。レーヴェよりも二回りは大きい手のひらが竜司の顔を狙う。慌てて横に向かってとぶ。が、間髪入れずに回し蹴りを放たれる。
(速い…!)
米村の動きはレーヴェよりも確実に速かった。だが、見えないほどではない。
(なら、やることは…同じ!)
後ろに一歩ずれてよけながら、視界に米村全体が入るように、目線を合わせる。次々に技を放つ米村の動きを、視線を、癖を観察していく。
対する米村は焦っていた。攻撃がかすりもしないのだ。見えているのにあたらない。まるで、幻を相手にしているかのようであった。
「どうなってんだよ。あれ…。普通は、防ぐもんだろ…」
見学する生徒のうちの一人がつぶやいた。その場にる全員が同じ気持であった。そう、本来ならば防ぎ受け流すのが護身術として習うものなのだ。だが、それを一切せずに、よけ続けている。それが、どれほど異常であるかこの場で分からないものは竜司以外ではいない。
そんな中で吉岡は満足そうに二人の組手を見ていた。彼も最初は目を疑った。レーヴェとの組み手が始待った時は、素人同然の動きだったというのち時間とともに、上達という言葉では言い表せないほどに成長していったのだから。それも、授業では全く教えていない方向に。
「恐ろしい才能だな…」
吉岡は気づけばそう呟いていた。それほどまでに彼の気分は高揚していた。まぎれもない才能。ためらいなく天才と表現できる存在を目の当たりにしていることに。そして、その少年を教えることができる幸運に。
「それに、あの顔…。間違いなく向いてるな。これは、楽しみだ」
そして、指定された3分が経った。吉岡が合図を出し、動きを止める二人。米村の攻撃は一度も当たらなかった。
「くそっ。なんなんだよお前。受け止めて防御すんのが普通だろーが。なんでよけてんだよ…」
「んーでもほら、受けたら痛そうだし。よけたほうが効率いいじゃん」
「だからって出来るもんじゃねえだろ」
竜司の言葉に米村は、あきれたように言った。息を切らしてこちらを見る表情はとても悔しそうだ。その姿に朝のこともあって、竜司はとても気分がよくなった。そんな二人に吉岡が声をかける。
「二人ともよくやった。次は交代してやるんだが、いけそうか?」
「いけます」
米村が即答する。吉岡はうなずくと竜司のほうを見た。竜司も体力的には問題ないので同じように、大丈夫だと伝える。
「なら、攻守を交代してもう一度だ。お互い構えて」
(そういや、攻撃ってどうやったらいんだ…。とりあえず、レーヴェの真似してみるか?)
米村と向かい合いながら、レーヴェの動きを思い出す。先ほど見たばかりなのでどんな動きかは覚えている。あとは再現できるかどうかだ。
「始め!」
瞬間。前へ大きく踏み込み、米村の顔に向かってこぶしを放つ。動きの切れは鋭く、当たればかなりのダメージだろう。しかし、そのこぶしはあっさりと受け止められた。そして、その勢いのまま後ろに流される。
「うおおおお!?」
急速に近づく地面に手をつき前転して耐性を、立て直す。そこでいったん止まり、掌を閉じたり開いたりしながらつぶやいた。
「本当に思った通りに動くな」
自分の頭の中で想像したとおりに体が動く。改めてこの体のスペックに驚くとともに感謝した。
「どうした、真島。今のでビビったのか?」
「まさか」
前の組み手がよほど悔しかったのだろうか。あおるように言葉放つ米村に、そんなわけないだろうと返し、構えなおす。
(まっすぐ行っても、流される。なら―――)
再び顔に向かってこぶしを放つ。米村も先ほどと同じように構えた。このままでは同じことの繰り返し。だから、竜司はこぶしが捕まる直前に、こぶしを開き逆に米村の腕を捕まえた。そして、その腕を自分に引きよせながら、踏み込みの勢いのまま跳躍。引き寄せや腕を軸に斜め上から、わき腹に向かって膝をぶつけ、同時に手を放す。
「んぎ!」
痛みをこらえるような声を出して、米村が吹っ飛んだ。地面に着地し立ち上がるのを待つ。一応、授業であるのこのまま続けていいのか迷ったのだ。
「そこまで!」
案の定、吉岡からのストップがかかった。米村のほうにより状態を確認し、彼に指示を出した。
「そうだな…。一応、治療薬飲んでからもどってこい」
「わかりました。…つう。あー真島」
「ん?」
「次は負けん」
指示を受けた米村は、そう言って腕を抑えながら校舎の方に向かっていった。
しばらくして、息を切らしていた者たちの体力も戻り、米村も戻ってきた。腕は
抑えておらず痛みをこらえている様子もない。
(すごいな…。もしかしたら、治療薬ってのはポーションみたいなやつなのかもな)
だとしたらすごいことである。あれだけ医療の発展していた前世よりも素早く治すことができるのだから。少なくともけがに関しては。
「よし、全員戻ったな。それじゃあ、再開するぞ。あと、真島悪いがもう一回米村と組め。イルシュタインじゃお前についていけん」
そうしてまた、組手ができるように広がって自分の相手と向かい合う。
「準備できたな。じゃあ、はじめ!」
合図とともに全員が動き出す。組手の授業はおおむねこんな感じで過ぎていった。
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