第8話 授業そして昼休み

 ホームルームを終え1時間目が始まった。1時間目は社会だ。内容は世界大戦。竜司は歴史自体は嫌いではなかったので聞いていてとても面白い授業だった。


「えー、この大戦によっていろいろな兵器が作られた。中には今も使われているものもある。まあ、ほとんどはすたれたがな」


 教科書には火縄銃のようなものの図が載っている。世界大戦ににしては古すぎる型の銃だ。なぜこんなものが使われていたのかも疑問ではあるが、こんな便利な兵器がすたれた理由がわからない。特に、竜司は前世でその威力を見たことはなくとも知っているのだけあって。


「せんせー」


「ん?」


「なんでほとんどの兵器がなくなったんですか?特に銃とか。遠くから攻撃できるんでしょ?」


 そして、ほかの生徒たちも気になっていたのだろう。クラスの中の一人が質問した。


「簡単だ。身体強化した兵隊に通用しなかったからだ」


「あー、なるほど。魔力ってすごいんすね」


(身体強化恐るべし。いくら、最初期の丸い銃弾だったとしてもそれをはじけるようになるのはすごいな。だけど…もし、現代兵器の銃を使えるなら、強化よりも早く撃つてば何とかなるかもな)


 そんな生徒と教師のやり取りを見ながら、竜司はそう思った。同時に身体強化がそんなにすごいなら、なぜ米村が魔法が役立たずと言っていたのかが気になる。銃の未発達などよりもかなり不自然である。

 このように、多少の疑問は残ったが、この後も学習範囲こそ違ったが、一応大学も卒業している竜司にとっては知っている内容だったので数学、国語、外国語とおおむね問題なく授業は進んでいき、昼休みとなった。

 弁当を出し、食べる用意をする。中身は鈴音特性ハンバーグ弁当だ。色とりどりの野菜も入っていてとてもおいしそうである。そして何より、驚きの冷凍食品ゼロである。これを朝の短時間で作るのだから、これはもう一種の才能だろう。


(うん、うまい。鈴音ホントすげーな)


「ねえ」


 そんな弁当をさあ食べようかといったところで、レーヴェが声をかけてきた。


「うん?」


「そ、その、朝はありがとう。いつも馬鹿にされてきたから。言ってることはちょっとアレだったけど、少しうれしかったわ」


 返事をすれば、少し目線をそらしながらそう言った。耳も少し赤い。


「そりゃあ、どういたしまして?」


「でも本当に良かったの?あんなこと言って。みんなあなたの事さけてるわよ」


 周りを見れば、確かに竜司とレーヴェの近くに人はいなかった。それどころか輪を描くように、離れていて竜司たちのところだけ空白地帯のようになっている。


「別に。周りが気持ち悪いっていうから、自分の好きなモンを嫌いっていうのは違うだろ」


「でも!私は…役立たずのエルフ、だし。見た目も獣人みたいにかっこよくない」


 だんだん小さくなっていく声。自分で言っていて落ち込んできたのか、表情までもが暗い。


「エルフが役立たずかどうかは知らんが…。どっかの偉い人は、玉座に座ろうが、枝葉の影に住もうが、人は人みたいなこと言ってるし、見た目は気にする必要なんかないと思うけどな」


「でも…。みんなは気持ち悪いって言ってるじゃない」


(それこそ気にする必要ないって言っても意味ないんだろうな)


 エルフは魔法に優れ、自分の美しさに自信を持ち、人間嫌いで傲慢。そんな物語の強いイメージがあった竜司からすると、その姿はとても意外に映った。その様子や、話から察するに、どうやらこの世界でのエルフはとても不遇らしい。


「…少なくとも俺は好きだぞ。エルフ」


「え?」


「みんなじゃない。俺は好きだといったんだ。二度も言わせんな」


 恥ずかしさに顔を赤く染めながらも、竜司は言い切った。それぐらい見ていられなかったのだ。暗く落ち込んんだ表情のレーヴェを。エルフだからというわけではなく、一人の少女にそんな顔をさせているということに耐えられなかった。


「そう、なのね。ありがとう。真島君」


「おう」


少しだけではあるが、明るくなった表情に少しホッとする。


「じゃ、じゃあ。あの、気持ち悪くないなのなら、その、お昼一緒に食べてくれないかしら。ずっと一人で食べるのは、さ、寂しいの」


ふと、レーヴェがそんなことを言い出した。瞳は揺れ、耳も不安げに揺れている。しかし、竜司は突然言われたことに驚き固まってしまっていた。


「やっぱり、ダメ、かしら」


しおしおと垂れ下がっていく耳を見てはっとなって慌てて答える。


「なわけないだろ、むしろ喜んでってところだな」


「本当に?」


「ああ、もちろん。よろしく、イルシュタイン」


「ええ、ええ!よろしくね真島君。あと、私はレーヴェで言いわ。イルシュタインは長いでしょ?」


「そうか。じゃあ、レーヴェ。飯食おうか」


「うん!」


美しい花が咲いたような表情で答え、用意をするレーヴェとパタパタとうれし気に動く耳を見ながら、竜司はその耳触りたいなあと思った。そうして昼休みは過ぎていった。

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