第6話 遺産問題
叔父が取り押さえられてからしばらく、竜司は鈴音を交えて事情を説明していた。竜司自身は、転生以前の記憶がないため、これまでの事情は鈴音に今回の件は竜司が主に説明していた。親戚たちも竜司がいない時を狙ってきていたので、警官も違和感は感じなかったようだ。
「なるほど…。最近未成年の遺産受け取りの問題は多いからね。今回みたいなのも結構あるんだよ。困ったことにね」
「そう、ですか」
だからこそ、鈴音が連絡してからすぐに警察も駆けつけたのかもしれない。しかし、叔父が捕まったからと言って、遺産問題が解決したわけではない。もしかしたら、今回をきっかけに、より過激に迫ってくる可能性もある。
「どう対策したらいいですかね」
竜司が聞くと、警官はにこりと笑って答えた。
「未成年の人が遺産を受け取るには、第三者の代理人が必要になるのは知ってるね?」
「はい」
「でだ、魔物関連でこういう問題が多発するようになってから、警察と専門機関の連携を図るようになってね。君たちが望むなら、我々の連携する法定代理人を紹介しよう。そこで確定させてしまえば親戚が遺産に手を出すのは難しくなるだろう」
確かにそうすれば、ある程度は防げるものもあるだろう。他人のお金に手を出すならば、それは親戚であっても窃盗だ。しかし、鈴音の言葉や叔父の様子を見る限りそれで収まることはないだろう。それでは意味がない。
「なるほど、確かにそうですが、今回のように直接来た場合の対策はどうすれば?」
「そっちに関しては、まず被害届を書いてくれ。それで、我々警察が動くことができる。接触禁止の制約をむすばせて、破れば逮捕という形をとれる。それではふそくかな?」
ひとまずは、それで問題ないはずだ。それでもしつこくなる場合はまた警察に相談して対策を立てればいい。
「いえ、十分です」
「うん。じゃあ、この書類をかいてくれるかな。これが被害届になる。それと、受理は問題なくされるだろうから、さきにこれも渡しておこう」
そういって、警官は一枚の紙を差し出してきた。みれば、いくつかの電話番号とそれに対する説明が書かれている。
「これは?」
「制約を破って接触してきたり、危害を加えられそうになった時に使う連絡先だよ。そっちに連絡してくれれば、普通連絡するよりはやく駆け付けられるようになっている」
竜司の疑問に警官はそう答えた。今回の警官よりも早く駆け付けられるならば、安全度はさらに上がるだろう。
「ありがとうございます。これなら安心して過ごせそうです」
「ははは。これが仕事だからね。でもどういたしまして」
竜司がお礼を言うと、警官は照れ臭そうにそう言った。それから、竜司たちは代理人の紹介とこれからの生活で気を付けるべきことなどについて聞き、警官との話し合いを終えた。
「本当にありがとうございました」
「いいよいいよ。お礼なんて。また何かあったら連絡してくれ。すぐ駆けつける」
「「はい!」」
竜司と鈴音が返事をすると、警官は笑いながら帰っていった。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「ありがとね」
そう言って鈴音は笑った。
「おう」
その顔を見れただけで、やってよかったなと竜司は思った。
「よーし。じゃあ晩御飯の用意でもすっか」
「うん」
代理人とのやり取りなどまだまだやることはあるが、ひとまずはこれで一件落着としてもかまわないだろう。これからどんなことが起こるかは分からないが、あの笑顔があれば何とでもなりそうだ。と、キッチンへ向かう鈴音の後姿を見ながら思った。
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