第3話 日記

――2009/6/15――


父さんと母さんが死んだ。まものにおそわれたらしい。けい備隊の人たちや親せきが何か言っていたけどよく覚えていない。ただ、変わり果てた父さんと母さんの姿と鈴音の泣き声だけが頭にこびりついている。なみだは出なかった。


――6/18――


今日はそう式が行われた。お坊さんがお経を唱え終わると火そう場に向かった。運ばれてきた骨を見ても、どっちが父さんか母さんかわからなかった。職員の人がどっちが父さん、母さんか言ってたけどそれでも見た目には全然わからなかった。ちっさいツボにはしで骨を入れて持って帰った。今日もなみだは出なかった。親せきたちが、おれを見てヒソヒソ話していたけど、おれはおかしいのだろうか。


――6/25――


そう式から1週間がたった。お坊さんが毎日きてお経を唱えて帰っていく。49日間続くそうだ。おれは、その後姿をぼうっと眺めていた。


――8/3――


父さんと母さんが死んでから49日目部屋にあった骨の入ったツボをお墓に入れるらしい。おれは鈴音と一緒にツボをもっていって墓の中にそれを入れた。

なにもかんじなかった。

親せきが俺を見てヒソヒソ言っているのが聞こえてきた。まものみたいって言っていたようなきがする。

おれはまものに見えるのだろうか。


――8/6――


親せきのまものみたいっていう言葉が頭からはなれない。父さんと母さんが死んでも何も感じないおれはもしかしたら本当にまものかもしれない。


――8/7――


父さんと母さんに会えた。夢だったけど。テストでいい点を取ってほめてもらったんだ。その日の夕食は焼肉だった。とても楽しかった。また会いたい。


――8/16――


最近は毎日父さんと母さんに会える。どうやら、眠れば会うことができるらしい。早く夜にならないだろうか。


――9/23――


またお坊さんがやってきた。親せきもだ。どうやら、父さんと母さんが死んでから100日だそうだ。またお経読んでいるのを後ろからながめていた。

昼ごはんの時またまものとか、鈴音、気の毒とか聞こえてきた。

まものかもしれないおれと一緒にいるすずねがかわいそうなのかもしれない。父さんに相談してみよう。


――10/19――


最近目が赤くなってきた。まるでまものみたいな目。やっぱり俺はまものだったんだ。どうしよう。このままだと鈴音がつかまってしまう。まものをかばうのは重ざいだってテレビで言っていたから。


――11/3――


最近親せきの人がよくくる。いさんがどうとか言っていた。鈴音がこまってたから真っ赤なまものの目で睨んでやった。そしたら、そいつはびっくりしてにげていった。すこしだけまもので良かったと思った。


――12/20――


最近きづいた。おれ、ねている間は人間みたいだ。これなら安心。ねていれば人間でいられて、鈴音もつかまる心配がない。しかも、父さんと母さんにも会える。一石二鳥だ。


――1/23――


学校のみんながおれに近づいてこなくなってきた。もしかしたら、まものだってきづかれたのかもしれない。それに、最近は父さんと母さんに会えていない。ねる時間が少ないのだろうか。


――2/8――


父さんと母さんにあいたい。ねむってもあえない。どれだけねてもあえない。どうしたらいいのだろうか。うまくねれていないのだろうか。そういえば、テレビで眠るための薬があるって言ってた。あとでこっそり見に行ってみよう。


――3/6――


このくすりはすごい。のむとすぐねむくなって、とうさんとかあさんのところにつれってってくれる。いいものをみつけた。


――4/10――


おかしい。くすりをのんでもあえない。やすみのひはいちにちじゅうねているのにいちどもあえない。とちゅうでめがさめるのがいけないのだろうか。たしか、いちどにたくさんのんだらずっとねていられるってきいた。きょうやってみよう。こえならあえるよねとうさんかあさん。


◇◇◇


そこで日記はおわっていた。ほかにもいろいろ書いてはいたが、目立っていたのはこれくらいだ。転がっている薬瓶から考えると、4月10日にこれを飲んだのだろう。


(それで、俺と入れ替わったのか、それとも乗り移ったのか。どちらにしろこの世界の俺は死んだのだろう。願わくば父さんと母さんに会えているといいけどな)


だが、いつまでも感傷に浸っているわけにもいかない。日記にはほかにも気になることが書いてあった。


「まもの、けいびたい、いさん、ねえ。特にまものが気になる。どうも俺にいたところとはだいぶ違うみたいだし。親が死んでるとことかとくに」


両親にもう会えないというのは少し、いやかなり寂しいものではあるが、自分でどうこう出来るものでもない。受け入れるしかないだろう。


「ま、日記を見る限り妹のことは大事にしてたみたいだし。代わりに幸せになるように努力はするよ。だからまあ、安心して寝てな」


何となくそう呟いて竜司は再び部屋を調べ始めた。



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