第2話 実家と違和感

「ガハッ‼はぁ…はぁ…。あれ、生きて、る?」


 大きな衝撃を受けたかのように跳ね起きる。慌てて自分の体を確認してみるがけがをした様子はない。健康そのものだ。夢だったのだろうか。そう思っていると、ふいに声をかけられた。


「お兄ちゃん?さっきすっごい音したけど大丈夫?」

「は?鈴音すずね?なんでいんの?」


 ここにいるはずのない人。竜司の妹が心配そうに見ていた。


「いや、私たちの家なんだからいるに決まってんでしょ。もう、寝ぼけすぎだよ」


 そう言いながら鈴音はベッドに腰かけた。


(…家?)


 鈴音の言葉に違和感を感じた竜司は、ここで初めて周りを観察した。


「な、実家⁉俺、たしか、一人暮らししてたはずじゃ!」


 ありえない事態にひどく混乱する竜司。ここが病院であればまだ理解できたが、県外にあるはずの実家にいるのはあり得ない。そんな竜司に、鈴音はあきれた様子でさらなるあり得ないことをつげた。


「お兄ちゃん。ちょっと寝ぼけすぎじゃない?私たち中学生だよ。ちょっと独り立ちには早すぎると思うな」

「は?中学生?」

「うん。お兄ちゃん中二。私中一。め、さめた?朝ごはんあるから、早めにりてきてね」


 そう言って部屋を出ていく鈴音を、茫然と見ていた。


「あ、ああ…」


 ふと、横にあるカレンダー目に入った。


(嘘だろ…)


 正確な日付は分からないが、カレンダーは2010年4月を示していた。竜司の記憶していた時よりも、約10年も前の日付だ。その事実に目を見開いた状態で固まる。


(時間が、戻ってる?)


 あり得ないことが起こっている。だからと言ってじっとしても何もはじまらないんで、とりあえず下の階に降りることにした。1階には、すでに鈴音が朝食の用意をしてテーブルの席についていた。向かい側には竜司の分であろう食事が用意されている。


「おそいよ。早く座って食べよ」

「ああ」


 席につき朝食を食べ始める。ごはん、みそ汁、目玉焼き。学生のころよく食べていたものだ。味も懐かしい。だが、


(なんで、父さんと母さんの分がないんだ)


 いつもならいるはずの両親。時刻はまだ7時を過ぎた程度。この時間なら一緒に食事をしていたはずだ。理由なら、目の前にいる鈴音に聞けばいい。だが、なぜか竜司は両親のことを聞くことができなかった。

 朝食を終え竜司は自分の部屋に戻っていた。


(とりあえず、どうんな状況なのか情報になりそうなものを探そう)


竜司も趣味でライトノベルなどを集めていた時期もある。なので、何となく自分に何が起きたかは想像できるが、何をするにしても自身の状況がどんなものであるかを知りたかった。

そうして、自分の机をあさっていると、一番下の引き出しから日記が書かれたノートが見つかった。その奥には、空になった薬瓶が転がっていた。


「すっごい嫌な感じがするけど…読むしかないよな」


そうして竜司は日記を開いた。

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