魔女とロマンと
柚子大福
第1話 プロローグ
「…疲れた」
支度を終え、職員室を出ると一言。これが最近の竜司の口癖だ。季節は9月の半ば運動会が近いうえに授業研修の準備もある。そのうえで普段の授業準備をしなければならないのだから仕方ないのかもしれない。
車に乗り込んで、時計を見ると時刻は21時半を過ぎていた。本来の終業時間が16時半なので、大体5時間の残業をしていたことになる。だが、これだけ残業していたとしても、残業代は出ない。全くのゼロである。
それに、竜司は一人暮らしである。そのため、帰ったとしても家事に加え、児童の提出物の丸付けがあるので休めるわけではない。そう考えると、ため息をついた。
「帰ろ」
とはいえ、じっとしていても何も始まらない。竜司は小さくつぶやいて車を出した。着任してから、ほぼ毎日通っているいつもの帰り道。それが今日はやけに長く感じた。
「くそ、眠い…」
ここ最近の忙しさのせいか、睡魔が襲いかかってくる。しかし、仮眠をとろうにも夜でも車の通りが激しい道なうえに、近くに車を止められるような場所もない。声を出すなどして、必死に意識を保とうとするが、ついに意識が飛んでしまった。
ぐらり、と頭が傾く。その衝撃ですぐにはっとなって前を向く。時間にすれば1秒にも満たない間。だが、その一瞬で車は傾き、目の前には電柱があった。
「っ―――」
声なき悲鳴。迫りくる電柱に視界が埋め尽くされ、竜司は最後にゴキリと鳴る首の音を聞いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます