限定品

Wさんの家は古くからT市で続くT和菓子店である。

T市からT和菓子店のメニューをふるさと納税返礼品にさせてもらえないか、という話がきた。

名誉なことだと大喜びしたWさん一家は是非と話が進んだ。

「折角だから返礼品限定のメニューも作ろうって話になったの」

試行錯誤すること数十日。

「中々、これぞってものが出来なくてね〜」

その頃、不思議なことが起きていた。

しまっていた道具の位置が変わっていたり、調味料が減ってたりしたのだ。

やっぱり限定品はなしにしようと思っていた矢先のこと。

夜中に目が覚めたWさんは限定メニュー製作の続きをしようと作業場に行った。

すると見慣れない人影がいる。

まさか泥棒?!と思い、息を潜めて見ていると複数人が調理をしていた。

「みんな色んな格好してたの。着物だったり、普通の作業着だったり。見覚えがあるな〜と思ってたら」

Wさんは思い出した。

彼らは仏間に飾られた歴代の当主たちだったのだ。

「あ〜でもない、こ〜でもないって言ってるのよ」

全員とても楽しそうにメニューを作っていた。

Wさんはそのままそっと作業場から抜け出すと、メニューが出来上がるのを楽しみに寝た。

数日後、作業場に達筆で書かれたメニューが置いてあった。

事情を知らない家族にWさんは自分が見たことを話したところ、みんな不思議そうな顔をしていた。

「とりあえず駄目元でメニュー通り作ってみたら、これがすごく美味しくって」

作り終えると不思議なことにメニューはどこかへ消えてしまっていた。

現在、T和菓子店の限定メニュー目当てにT市へのふるさと納税が殺到している。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る