転校生
米寿をあと少しで迎えようとしているPさんには忘れられない出来事がある。
「私が小学生の時に転校生で女の子がやってきたのよ」
明るくて美人だった女の子はすぐにクラスの皆と打ち解けあい、特にPさんは帰り道が一緒なこともあってとても仲良くなった。
Pさんの気立ての良さを信頼し、女の子はPさんを自分の家に誘ってきた。
家には女の子の母親がいて、手作りのお菓子を振舞ってもらったことをよく覚えていると言う。
「そこで初めて知ったんだけど広島からいらしたのよ。お母さん腕にケロイドがあったわ…」
父親が原爆病で亡くなり、母親の実家があるT市を頼ってこちらに来たのだそうだ。
「原爆投下時に爆心地に結構近い場所に住んでいたのね。よく無事だったねって言ったのよ」
すると女の子は原爆投下時の話をし始めた。
彼女は原爆が落ちた日、幼稚園生だったそうだ。
「キリスト教の幼稚園でね、教会が敷地内にあったんですって」
信仰心が強かった彼女はいつも教会に佇むマリア像にお祈りしてた。
あの日もそうだった。
「爆弾が落ちた時にね、ふせてー!ってシスターさんに言われて抱きかかえられたそうよ」
次の瞬間には強い衝撃が彼女を襲ったが、少し腕を擦りむいた程度の怪我で済んだ。
そして女の子の傍らにはシスターではなく半身を吹き飛ばされた教会のマリア像がいた。
「マリア様の顔はまるで泣いているようだったって言ってたわ」
今年で原爆投下から77年経とうとしている。
完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます