地下鉄

T市随一の規模を誇るT駅はあらゆる路線が集結している。

「この駅、あの事件で結構有名なんですよ」

当時学生だったNさんはパニックに陥る大人たちを呆然と見つめていた。

ある団体が毒物を地下鉄線内に散布し、多数の死者を出した事件。

T駅は被害に遭っていなかったものの近隣ではあった。

「もちろん駅構内は立ち入り禁止になって、大遅刻しましたよ。この駅は被害に遭った駅とハブですからね。ここから乗車して巻き込まれた人もたくさんいたでしょうね」

それから数十年経たつい最近のこと、Nさんは不思議な女性を見た。

Nさんはいわゆる「見える人」だ。

「必ず事故があった日なんかは見えちゃうんですよ」

駅では露骨にボロボロの格好をした幽霊ばかり見かけるので、気分が悪くなることもたびたびあったようだ。

「でもその人は最初気づかなかったんです」

一人の小綺麗な格好をした女性が声をかけてきた。

「少し古めかしい感じがしました。なんだろうと考えたんですけどメイクでしょうね。今時してる人は見かけないようなメイクでした」

某駅に行くにはこの電車で間違いないか尋ねてきた。

「問題ないと答えました」

女性はありがとうございますと呟くと少し離れた列に並んだ。

すると後から来た人が女性と「重なって」並び始めた。

「一瞬、どうなってんだと思ったんですけど。すぐ幽霊だったと気づきました」

そのまま誰も女性には気づかずみな電車に乗り込んでいった。

「その日に事件の首謀者の死刑判決が出たんですよ。あの人は被害者で、裁判を見に行ったんだろうなって」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る