赤ひげ先生
T市には日本有数の大病院で百年以上の歴史を持つT病院がある。
初代院長はT市の中でまともに医療を受けることができない貧困層の人々を積極的に治療したそうだ。
T病院に看護師として働くMさんは勤続して数年になるが、最近まで新型感染症のせいで大変だった。
「あまりにも過酷だから、転職することも視野に入れてたのよ」
そんなある日、彼女は彼を「見た」そうだ。
新型感染症が日本に上陸しパンデミックを起こした頃のこと。
治療設備が整ったT病院にも何人もの患者が担ぎ込まれた。
「院内はパニックだった。みんな死に物狂いで治療に当たったの」
激務と想定外の事態がたたり、Mさんも同僚も疲れ切ってた。
ところが、それから不思議なことが続いた。
「夜勤中ナースコールが全然鳴らなくなったのよ。そのお陰で夜勤がかなり楽になってね」
ある日Mさんが夜勤中に院内を巡回していると、一人の患者さんのベッドから話し声が聞こえてきた。
覗き込むと眠った状態の患者さんが誰かと話してる。
「はい、とかありがとうございますって言ってて寝言かな?って」
特に気に留めていなかったが、同じような寝言が別のベッドから聞こえてくる。
Mさんがしばらく部屋で様子をみていると、ドアから人影がゆっくり出て消えた。
「後で患者さんに聞いても夢の内容は覚えてないって」
でもね、とMさんは続ける。
「初代院長先生が診てくれてたんだろうなって。診療されてるみたいだったもん」
T市のホームページは初代院長を「T市の赤ひげ先生」と記している。
完
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