ラムネ

Iさんの実家はT市の旧家で、長期の休みはいつも里帰りしていた。

11歳の夏休みのこと。

「その時も実家に帰りました。あちこち探検してたら蔵で見つけて」

埃を被った蛇の置物だった。

琥珀色の目をしたリアルな作りだったという。

なんとなく神々しさを感じた彼女は持ってたハンカチで丁寧に拭いておいた。


その晩、庭で一人涼んでいると離れたところから自分を見ている少年を見つけた。

年の頃は自分と同じくらいか、それとも少し上か。

琥珀みたいな不思議な眼の色をしていた。

はて、親戚の子供にこんな子はいただろうか?とIさんは思案したが、

「隣に座っていい?」少年が声をかけてきた。

Iさんは喜んで少年と語らった。

話の途中で少年は「さっきのお礼だよ」と大きなラムネみたいなものを3つ渡してくれた。

何の話?とIさんが尋ねようとしたその時、

「I!!」後ろから母親が大声で話しかけてきた。

驚いて振り向くと引きつった顔の母親が立っていた。

少年は消えていた。

後で母親から話を聞くとIさんと同じくらいの背丈をした大蛇と娘が話込んでいるのを目撃し、思わず叫んだのだそうだ。


「ラムネのことは母に黙っていました」

もしや食べたの?本当にラムネだったの?とIさんに尋ねた。

「一個、勇気を出して食べてみました。味はラムネそのものですごく美味しかったです。しかも…」

その後の中学受験が大成功したのだという。

「まだあと2個ラムネ残ってるんです。でも食べたらお腹壊しちゃうかな」

ラムネはピンポン球のようなサイズらしい、それって…

「卵みたいでかわいいんですよ〜」

Iさんは無邪気に笑った。


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